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世界の造り手から

シャンパーニュ『ヴォルティス』と『ムニエ』のゆくえ ③/3

シャンパーニュ『ヴォルティス』と『ムニエ』のゆくえ ③/3

世界的な気候変動がシャンパーニュにもたらしている影響のインタビュー。第3回目ではシャンパーニュの味わいに及ぼす影響を生産者に話してもらいました。

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話し手:ヨハン・ジェンドロン氏
(シャンパーニュ・ボーモン・デ・クレイエール社 輸出マネージャー)
2023/10.27

―第8の品種『ヴォルティス』と、ヴァレ・ド・ラ・マルヌの『ムニエ』

※2018年にシャンパーニュの新しい品種として『ヴォルティス』が実験的に認可された。栽培が許されている既存の品種(シャルドネ、ピノ・ノワール、ムニエ、ピノ・グリ、ピノ・ブラン、アルバンヌ、プティ・メリエ)に次いで8番目となる。

最後のトピックは新しい品種『ヴォルティス』についてですね。意外かもしれませんが、これは気候変動の話題とつながっているんですよ。これまで見てきた通り「季節」がなくなってきたことにより、畑でブドウの病気が目につくようになっていることが誕生の背景にあります。

べと病やうどんこ病、または他の病気があると、ブドウ栽培農家はその病気と戦うために農薬や薬品を使用しなければなりません。これは農家がより多く働かなければならないことを意味します。ここ10年ほど、「今年はべと病が強力」だとか、「うどんこ病が強力だ」という話を聞くようになりました。正確なことはわかりませんが、新品種の開発はおそらく病気の影響が顕著化するより前、すなわち10~15年くらい前からより病気に強い品種を求めて考えられ始めたのではないかと思います。

シャンパーニュ地方で我々が目にする主な問題は、依然として毎年べと病やうどんこ病です。それは常に同じで「今年はどうなるのか」「畑には何が現れるのか」「べと病か?うどんこ病か?」といつも話題になります。こうした病気はやっかいな課題であり、根本原因である「カビ」に対する対抗策が求められてきました。そして今、『ヴォルティス』がその問題を解決するかもしれないとして注目されています。これは新しいブドウで、品種のかけ合わせによって作られました。フランスのINRA(国立農業研究所)が開発したもので、主な利点はカビに対する優れた耐性を持っていることです。2018年に使用が許可され、畑で栽培することができるようになっています。ただし、実験段階のため10%を超えてワインにブレンドすることは禁止されています。

私はこのブドウの正確な特徴をまだ知りませんが、ワインの風味に与える影響がどの程度なのか生産者として気になるところです。例えば、南フランスのミュスカのような品種は非常に強い香りがありますよね。ほかの品種を使用するということは、それがワインの風味を完全に変えてしまう可能性でもあり、望ましい変化をもたらさない可能性があります。だから、われわれはカビへの耐性と同時に風味が中性であることも求めています。

―ボーモン・デ・クレイエールではヴォルティスを使っていきますか?

それは良い質問です。結論を先にいうと導入はまだ早いと思っています。申し上げた通りヴォルティスはまだ実験を行っている段階です。私たちは判断を急ぎたくありません。シャンパーニュの風味に悪影響がないことを確認するまで、もっと時間をかける必要があると思っています。私たちは待つことを選びますが、ボーモン・デ・クレイエールだけでなくシャンパーニュの多くの生産者は検証の結果を待っていると思います。もう少し待ち、確実に良い影響のみがあることを確認したいと思っているはずです。

実際にヴォルティスを導入した場合、ワインに使える樹齢に育つまで数年かかります。植樹してから最初の収穫が得られるまでは最短でも3〜4年かかり、その後シャンパーニュ製造の長いプロセスが始まりますから、さらに最低2〜3年が必要になります。したがってたった今植樹したとしても、最も早くて7年以上がかかることになります。したがって仮に導入が進んだとしても変化はゆっくりになるでしょう。

―実験用のブドウ畑やプロジェクトはあるのでしょうか?

CIVC(シャンパーニュ生産者同盟)をご存知ですね?彼らがヴォルティスの実験を2018年から続けています。おそらく何らかの結果は出ているはずですが、全てがうまくいったのであればもう「大丈夫、使っていいよ」と言っているはずです。

でも彼らは慎重に進めているのだと思います。だから「試すならOK。でも10%以下だよ」と言うに留めているのでしょう。「今のところ」は慎重に待つべきというメッセージだと思います。「今のところは」ですよ。

―気候変動がムニエに与えている影響を教えてください。

私たちボーモン・デ・クレイエールはヴァレ・ド・ラ・マルヌに位置しており、この地域は『ムニエ』(ブドウ品種)で有名です。私たちはムニエに関してうまくやっていると思います。なぜなら世界中の人々からその美味しさを評価いただいているからです。私たちはこの品種に関して良いノウハウを持っています。ムニエはヴァレ・ド・ラ・マルヌの気候に適しており、非常によく育ちます。同じシャンパーニュ地方のモンターニュ・ド・ランスやコート・デ・ブランには適さないとが知られてきました。しかしこれについても注意が必要です。ムニエはヴァレ・ド・ラ・マルヌの特徴である「春の霜」に対して強い耐性を持っています。それはムニエのもつ強みといって間違いありません。しかし、現在は気候が変化しています。

今年(2023年)のような夏のにわか雨に対して、ムニエはシャルドネやピノ・ノワールに比べて強い影響を受けました。100%確実ではありませんが、過去数年間を見る限り夏の湿度や雨にムニエは影響を受けやすいようです。ですから、「マルヌにとってムニエが一番適している」と言うときは、非常に慎重でなければならなくなっています。昨年(2022年)のような気候なら、ムニエは素晴らしいものになるんですが。

とにかく、これまでムニエは春にその強みを発揮していましたが、今では夏の雨に気を配ったうえで総合的に判断する必要があるということです。

―この15年間に、これほどの変化があったことに驚かされました。100年、200年どのようにしてこの伝統を保ち、適応しながらスタイルを維持するのか考えさせられますね。

そうですね。それは本当に大変な作業ですよ。でも、それこそが解決策だとも思うんです。我々は適応していく必要があります。自分たちの父親たちが考えていたように考えないで、心を変えていく必要があると思います。私は組合員の栽培農家と話すことがあります。若い栽培家の中には、「私は何も変えたくないです。私の父はこれをやっていて、私の祖父もこれをやっていて、それでうまくいっていたから」と言う人がいます。

でも、私は「でも、その時の状況と今では少し違うでしょう?今、気候は変わってきているし、もっと違うやり方をしてみるべきではないか?」と問いかけます。中にはまだ準備ができていない人もいますが、私たちは変わらなければならないと確信しています。気候変動に適応していかなければなりません。このように、農家たちすべてを説得することは課題の一つです。もちろん彼らの言うことは理解しますよ。なぜなら、彼らはまさに畑にいて、同時に畑の所有者でもあるからです。先鋭的な考え方をする農家がある一方で、保守的な農家もあります。彼らを説得することは啓蒙でもあり、それもまた大切な仕事だと感じています。

日本のシャンパーニュファンの皆様、気候変動やヴォルティスが将来どのような変化をもたらしていくのか、ぜひ一緒に見守ってくださいね。

 

2023年 インタビュー 全3回 おわり

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