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「キラキラ」なワイン、フェルゲッティーナのフランチャコルタ

「キラキラ」なワイン、フェルゲッティーナのフランチャコルタ

このワイナリーのワインは、いつも自分の心をピュアでキラキラにしてくれる。


いや、ワインに金箔が入っているというわけではない。
このワインの味、このワインを造っている人たちがそうしてくれるのだ。

グラス注げば、ほら、繊細な泡がはじける。
透き通っていて、口に含めば、とっても透明感のある味わい。
心の中を、どこかさわやかな風が通る。

ワイナリーの名前はフェルゲッティーナ(Ferghettina)。
ワイン名はミッレディ フランチャコルタ ブリュット(Milledi Franciacorta Brut)。
ミッレディ(Milledi)の由来となった1,000日もの熟成を経た、シャルドネ100%で造られる、辛口のスパークリングだ。


「フランチャコルタ」というのは、州都ミラノがある北イタリアのロンバルディア州、東部に位置するエリア。
観光地で有名なイゼオ湖の近くにあり、大昔の氷河によって作られた地形になっている。

(イゼオ湖を望む)

この地では、イタリアワインに4段階ある格付けのうち、最上位の等級であるDOCG認定を受けたスパークリングワインで、地名でもある「フランチャコルタ」というワインを産出している。


イタリアきっての最高級スパークリングワインであるフランチャコルタがこの地で生まれた背景には、特殊な自然環境と、品質を守るための厳しい規定が存在する。


まず、この氷河により出来たイゼオ湖の存在だ。フランチャコルタに与える影響はとても大きい。最大水深250mと非常に深いことにより、水の温度変化が一年を通して少ない。
この地域はイゼオ湖の南に位置しており、冬場は北にあるアルプス山脈から吹き降ろしてくるとても冷たい風を、イゼオ湖が温度調節してくれるのだ。そのおかげで、オリーブが育たない寒い北イタリアでも、この周辺では収穫できている。
一方、このアルプス山脈の冷たい風が夏場の夜にも吹くことで、スパークリングワインには理想的なブドウへと成熟していく。

(ブドウ畑の北にはイゼオ湖が見える)

これがブドウの成熟に大きな恩恵をもたらし、おかげで完熟したブドウが収穫できる。さらにはアルプス山脈から常に吹き降される風は、ブドウの病害を減らしてくれる。健康で元気、おいしいブドウができるのだ。

(収穫を迎えたブドウ)

また、氷河の流動により形成された土壌というのも特徴だ。この周辺は氷河がアルプスの山々を削り、その岩屑で出来た小高い丘に囲まれた地形。また運ばれた土が混ざり合う、多様性に満ちた土壌である。それがブドウの複雑な味わいに影響を及ぼしているのだ。

(ブドウ畑の土)

この環境下で育ったブドウが、フランスのシャンパーニュと同様の瓶内二次発酵の製法と、長い熟成を経て、フランチャコルタとなる。
製法などには厳しい規定があり、法定熟成期間はスタンダードなものでも、シャンパーニュの15ヶ月よりも長い、18ヶ月以上の酵母との瓶内熟成が義務付けられている。


こうしてできるフランチャコルタは、果実味が豊かで繊細な味と泡立ち、口当たりの柔らかさが魅力だ。特に興味深いのは、1つ1つのワイナリー、ワインによって、異なった顔を見せてくれるところだ。
まずこのような土壌なので、ブドウの育つ場所で、味わいが異なってくる。
そして熟成によって、個々のワインボトルに差が出てくる。


何より、このような特徴的な生産地であるが故に、ワインの生産量を増やせない場所になる。シャンパーニュに比べると僅か5%ほどの量だ。必然的に大きなワイナリーが少ない。それ故、ワイナリーの個性が表れる。
ワインに個性をもたらす要素がとても多いのだ。これがフランチャコルタの最大の魅力ともいえる。


その中でも、ひときわ「ピュアで洗練」された印象を持ち、いつも「キラキラ」という言葉が思い浮かぶ生産者のフランチャコルタがある。それがフェルゲッティーナ(Ferghettina)だ。

(ブドウ畑に囲まれたフェルゲッティーナ)

フェルゲッティーナは、Gatti(ガッティ)家が経営する、家族経営のワイナリーだ。ガッティ家の家族の皆さんに会うと、自分の心にいつも爽快な風が吹くような、そしてキラキラと晴れやかな気持ちになる。


このワイナリーは、現在のオーナーであるRoberto Gatti(ロベルト・ガッティ)さんが立ち上げた。
生まれも育ちも、このフランチャコルタのロベルトさんは、若くしてワイン造りの世界に入った。


無口で働き者。「頑固職人」という言葉がぴったりだ。しかし、情熱をもって取り組む姿勢が高く評価され、僅か23歳の時に、名門ワイナリー「ベッラヴィスタ」の醸造と栽培、両面での責任者に抜擢され、以来ワイン造りに没頭してきた。家族でワイナリーに住み込み、この名門の地位を築き上げてきた。
そのロベルトさんが、自身のワイナリーとして立ち上げたのがフェルゲッティーナである。

(Gatti家の皆さん)

このワイナリーには、ロベルトさんの長い経験や知識が集約されている。
特筆すべきは、その上品さ、澄み切った味わいで、そこにはロベルトさんがフランチャコルタに求める3つの哲学がある。
「繊細」、「純粋さ」、「熟成美」、この3点である。


これらを追求するための最大のポイントは「贅沢な果汁」だ。
なんと、自社で収穫した全てのブドウのうち、フェルゲッティーナのフランチャコルタとなる果汁の量は、2割に満たないのだ。

 
まず、収穫したブドウのうち、品質の見合わないものを半分、つまり50%のブドウを他の生産者に売却する。次に、残ったとても高い品質のブドウを搾るのだが、特殊な圧搾機で優しくブドウを搾る。これは極めてきれいな果汁だけを抽出するためだ。
その比率は、ブドウの僅か35%。フランチャコルタの規定では、65%まで搾ることが認められているにも関わらず。

(収穫したばかりのピノ・ノワール。選別し、圧搾機へ)


果汁は、見たことのないほどの透明感を放ち、搾られたブドウの実が、まだ丸い形を保っているところに驚きを隠せない。
結果的には、ブドウ全体から得られる果汁の量は、僅かに17.5%と、2割に満たない贅沢果汁が出来上がる。

(ピノ・ノワールを優しく搾る。透明感が高く、ほんのりピンク色を帯びている)


もう1つのポイントは、シャンパーニュより長い熟成規定よりも、さらに長い熟成期間を取ることだ。
スタンダードな「フランチャコルタ ブリュット」でも、規定の18ヶ月を超え、最低でも24ヶ月は熟成させる。「エクストラ・ブリュット」は、規定の36ヶ月の倍となる72ヶ月以上、「パ・ドゼ」は、何と82ヵ月の熟成をさせるという。

(何年もの間、静かに熟成されていく) 

熟成を経ることで、ワインは少しずつ変化する。ロベルトさんは、その変化を1ヶ月、2ヶ月、そして3ヶ月と少しずつ伸ばしていった。その結果、熟成を長くとった方が、求める理想の味わいに近づいた。


経営の観点からすれば、製品化に時間がかかって売れないのは得策ではない。
でもロベルトさんは、根っからの職人なのだ。求める味を追求した。


熟成美を追求するためには、単なる期間だけではない。なんと、そのボトルの形状まで変えてしまったのだ。
フェルゲッティーナのいくつかのフランチャコルタは、通称「ピラミッド・ボトル」と言われる特殊なボトルを採用している。より深い旨みを持たせたいとの思いから、熟成の際に出てくるブドウ由来の滓(おり)と触れる面積を広げるよう計算された形状になっている。泡立ちきめ細かさ、洗練された余韻を追求し、遂には特許まで取得したボトルだ。

(ピラミッド・ボトルの中での熟成変化。画像はロゼ)

と、ここまでつらつらと書いたが、一番心に残るのは、ワインを造っているGatti(ガッティ)家の人々だ。

訪問すると、娘のLaura(ラウラ)さんや、息子のMatteo(マッテオ)さんがいつも笑顔で迎えてくれる。ロベルトさんは無口だが、シャイで口下手だけど、家族みんなが着飾ることなく話をしてくれる。 

(ワインの試飲中。ボトルの間から微笑むラウラさん)


ワイン造りに対して真剣なのは色々説明できるけど、人の良さというのはなかなか表現しづらい。
でも、会うときは、疲れていてもいつも笑顔だ。
 
写真を取りたいというと、このポーズ。

「キラキラ」。


ピラミッド・ボトルがあると、見た目のおしゃれさで食卓が華やぐ。
グラスに注いだ時の洗練された色合い、細かな泡、繊細な味わいも素晴らしい。
でも、このフレーズが頭をよぎる一番の理由は、Gatti家の人たちの素敵な笑顔だ。


フェルゲッティーナのフランチャコルタ。
実はキラキラな笑顔いっぱいの人たちが手掛けている。


皆さんにもその笑顔が届き、心が晴れやかになれますように。


(参考サイト)
・Ferghettinaワイナリー https://www.ferghettina.it/
・フランチャコルタ協会 https://franciacorta.wine/ja/wineries/ferghettina/

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