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走る馬あれば、ワイン造る馬あり。

走る馬あれば、ワイン造る馬あり。

馬がワイン造りで活躍するシーンが増えてきた。競馬好きのワインライターが独特の農法を実践するワイナリー『セレシン・エステイト』を例にお伝えする。

おうち時間が増え、新しいものに興味を持った人も多いのではないだろうか。私にとっては「競走馬」がまさしくそれだ。動画配信サービスで、ふと流れてきた動画をきっかけに、気が付けば1人競馬場に馬の写真を撮りに行ったり、大阪から北海道にある馬牧場まで足を運んだりするほど熱中するようになった。

一度興味を持つと、とことん調べる性分の私は、自分が生まれる前から現在までの数々の名レースや競走馬のまとめ動画を見漁った。その中で、私が生まれた1993年は血統と実力を示すも3度の骨折に苦しんだトウカイテイオーが1年ぶりに出走して勝利した有馬記念という今なお記憶と記録に残るレースがあったことを知り、なぜか少し誇らしく思えた。

2020年は世界で初めて白毛の馬*1・ソダシがG1レースで勝利を挙げ、さらに2021年には牝馬クラシックの1つ、桜花賞も制した。また、一世を風靡した競走馬・ディープインパクトの産駒が中央競馬で史上2頭目となる通算2,500勝を挙げたことも最近、競走馬界で話題になったニュースだ。

もう一つ、馬の名前について調べるのも私の楽しみだ。
先ほどのトウカイテイオーは親馬の名前にちなんでいる。ソダシはサンスクリット語で「純粋」を意味し、純白の毛並にピッタリの名前だ。中には「オニャンコポン」「オジュウチョウサン」のようにユニークな名前の競走馬もいる。

ユニークな名前の馬がいるならと思い、さらに調べてみると、ワインに関する名前の馬たちもやはりいた。ロマネコンテイ、サンテミリオン、ピノノワール、リースリング、アスティなどワイン産地や畑の名前、ブドウ品種の名前だ。すでに引退している馬もいるが、もし今も走っていたら応援していただろう。

馬とワインの関係。それは競走馬の名前だけにとどまらない。馬は「ワイン造り」に大きく関わっているのだ。昔はブドウ畑を耕す農耕馬が多くいたし、ワインを輸送するのにも馬は欠かせない存在であった。
現在、馬車でワインを運ぶことはほとんどなくなったが、農耕馬を活用してブドウを栽培している生産者は逆に増えつつある。『ビオディナミ』と呼ばれる環境に配慮した栽培を実践している生産者たちだ。ビオディナミでは化学肥料を使用しない有機農法に加えて、動植物や土壌中の微生物など畑の生物多様性、さらには月や惑星の天体の動きまでを考慮してブドウ栽培を行う。

ニュージーランドの『セレシン・エステイト』もビオディナミを実践しているワイナリーだ。
農園全体がほぼ完全なビオディナミを実践しており、ニュージーランド国内はもちろん、世界各国のワイナリーが学びに訪れるほどである。

ワイナリーでは農耕馬としてだけではなく、畑に撒く調合剤*2を運ぶのも馬の役目だ。トラクターを入れると、その重量とエンジンの振動が地面を踏み固めてしまい、土壌中の微生物に悪影響を与える可能性があるのに対し、馬だとこのような心配はない*3。また、ガソリンを使わないという面でも環境に優しい。

さらに、ワイナリーでは馬以外に羊や豚、鶏なども飼育し、ブドウ以外の様々な植物を育てている。畑に生えた雑草を動物たちが食べ、彼らのフンは堆肥になる。卵の殻は土壌の肥料に用いられて植物や土壌中の微生物の養分となっている。こうしてできる健康的な土壌から質の良いブドウができるとされている。

ワイナリーでは「ハンドクラフト」をモットーにワインが造られている。重機を使わず、人や馬、ブドウ以外の動植物、さらには土壌中の微生物が力を合わせて造るまさに「手作り」のワインだ。
醸造過程においても天然酵母を使用し、酸化防止剤はワインの品質を安定させるのに最小限の量しか添加されない。こうして造られるワインはブドウの品質がそのままワインに表現されている。

今回選んだのはピノ・ノワール。前出の競走馬の名前にもなっていたブドウ品種で、ニュージーランドで最も多く栽培されている黒ブドウだ。そして、これまた競走馬の名前になっていたロマネ・コンティは世界最高のピノ・ノワールが育つ畑として知られている(畑があるのはフランスのブルゴーニュ地方)。

やや淡いガーネット色をした液体からはラズベリーやストロベリーのフレッシュな果実に加えて、ハーブの清涼感や乾燥したスパイスの香りが広がる。飲んでみると生き生きとした酸味と程よい凝縮感のある果実味があり、美味しい。ビオディナミで造られたワインだが、とてもキレイな味わいのワインだ。これを造るのに馬が一役かっていると思うだけで杯が進む。

「天・地・人」ワインにはこの3つの重なり合いが非常に大切だ。しかし、その「地」の裏側でたくさんの生き物たちがその味を支えていることを考えながらグラスを傾けるのもまた楽しい。
ちなみに、馬はフランス語で「シュヴァル」という。いつか「白馬」名前を冠したワインを飲みながら白馬の走る姿を応援したいものだ。


*1有色毛の親どうしから白毛の仔馬が生まれる確率は0.04%(1万頭に1頭)でソダシの祖母馬がこれにあたる。

*2ビオディナミ農法では化学肥料は使用しないが、天然肥料を与えて畑の力を高める。

参考

■イザベル・レジェロン(著)清水 玲奈(訳)『自然派ワイン入門』/2017年/106, 107頁
■『純白のサラブレッドたち〜白毛の軌跡、ソダシ誕生~』/テレビ東京/2021年10月9日放映

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ニュージーランド
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Seresin Estate Limited

セレシン・エステイト

Seresin Estate Limited
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