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レポート

【参加レポート】新鋭オーストラリアのワイナリー『ヴィンテロパー』とLIVE中継を繋ぐオンラインワイナリーツアー

【参加レポート】新鋭オーストラリアのワイナリー『ヴィンテロパー』とLIVE中継を繋ぐオンラインワイナリーツアー

世界中のワイナリーと中継をつなぎ、LIVEで観られるオンラインワイナリーツアーに参加しました。2019年にワイナリーを襲った山火事からどうやって復活に至ったかや、オーストラリアワインの魅力などの興味深い内容が満載でした。

ここをご覧の皆様であれば、すでにご存知のことかともおもいますが、モトックスでは、『楽しんでいたら学べてた。モトックス! ONLINE』と題して、Zoomを使用してのオンラインワイナリーツアーやセミナーを開催しています。
今回は、2022年2月26日(土)の昼下がり、14:45から16:00まで開催された『ヴィンテロパー オンラインワイナリーツアー』のリポートです。訪れる先は南オーストラリア州アデレード・ヒルズ。日本との時差はプラス1.5時間。

アデレード・ヒルズはクールクライメット

2月26日(土)に開催された『ヴィンテロパー オンラインワイナリーツアー』の料金は、ワイン1本付きチケットで4,400円、ワイン2種各1本付きチケット で7,975円。いずれも消費税&送料込。どちらのチケットにも、スペイン産のエクストラヴァージンオイルがおまけで付いてくる。

チケットを申し込むと、ワインも当日アクセスするべきURLも、ツアーの開催日からだいぶ余裕をもって送られてきた。オンラインイベントももはや、普通のこととなった感のある現在だけれど、こういう事前のやり取りがスムーズなのは、安心感がある。

届いたワインには、グラフィティアート的なラベルがついていた。いかにも、オーストラリアの若手生産者のワインといったルックスだ。どんなワインなのか? どんな造り手なのか? 週末に造り手と、そして他の参加者とともに味わうのが待ち遠しい。

棚にしまおうとして白ワインのボトルが、ドイツ・アルザス系ワインのように、細身で背の高いものだということに気がつく。調べてみると、ピノ・グリ80%、リースリング20%というブレンド比率だそう。ピノ・グリは、ドイツとフランスの国境付近で、いま人気の品種。そこに、この地域の高級ワインを生み出す白ワイン界の女王、リースリングがブレンドされている。

伝統的に、これらドイツやフランスの産地では、ブドウ品種をブレンドしないのだけれど、こちらは自由の国、オーストラリアは南オーストラリア州アデレード・ヒルズ出身のワイン。そんなことは関係ない、というのが、らしいではないか。そんなブレンドのことはともかくとして、まずおさえておくべきは、アデレード・ヒルズが、現在、ワイン業界で人気の「冷涼産地」のひとつだということ。

オーストラリアワインの半分以上を生み出すオーストラリア最大の産地、南オーストラリア州は、おそらく一番有名なのがバロッサ・バレーの、いわゆる「バロッサ・シラーズ」と呼ばれる力強い赤ワインだから、というのと、南、という言葉から、ついつい、暖かいようなイメージを持ってしまいがちかもしれないけれど、州都アデレードは南半球の陸地のなかでもかなり南に位置していて、南極だってそう遠くはない。そして、ワイン産地はアデレードを中心に東西南北に広がっている。アデレード市内からは、クルマで1時間ほどで、たいていの産地に行けてしまう。

バロッサ・バレーはアデレードから北東にある。いっぽう、アデレード・ヒルズは南東だ。南半球は南に行くほど寒い。およそ60軒ほどのワイナリーがあるというアデレード・ヒルズは寒い土地だ。

ブドウ畑を襲う炎

当日、イベントは、アデレードの紹介からはじまった。州都といっても20分もあればたいていの場所には行けてしまうコンパクトな街で、ヨーロッパ風の建築が立ち並ぶ、芸術と文化の街。大学もあって、学生にもやさしい物価、といったところが紹介された。

続いて、『ヴィンテロパー』があるG.I(地理的表示)、アデレード・ヒルズについて。標高は400mから600mと高く、年間降水量が1160mmと、ワイン産地としては多いが、雨季は主に冬なため降り、ブドウ樹が芽吹く前に土を潤わせる。

その後、画面はその、アデレード・ヒルズへ。いよいよ、ツアーの始まりだ。ヴィンテロパーの畑を写すカメラをもっているのは、このワイナリーのオーナー、デヴィット・ボワリー氏の右腕として、栽培・醸造・営業と多岐に渡る業務をこなす、高橋 諒(アキラ)さん。ヴィンテロパーのリーサルウェポンと称するこの人物は、その名の通り日本人男性。通訳がいない、というテンポの良さも、今回のツアーの見どころだった。チャット感覚で質問や感想を打ち込むと、アキラさんがすぐに反応してくれる。この距離感の近さ、和気あいあい感が楽しい。

アキラさんがもつカメラが写したのは、波打つ大地とそれを覆うブドウ樹。この起伏、キャンティ・クラシコやコート・ド・ボーヌをおもわせるではないか。これはいいワインができるに違いない!

が、なんだかブドウ樹の背が低い? いや、ちょっとボサボサしているし、ブドウ畑にしては、なんだか樹の密度が薄いような……『ヴィンテロパー』が自然派だから? しかも、このとき日本が2月末ということは、季節が逆のオーストラリアでは、8月末に相当する。もう、収穫直前なはずだ。なのに、畝の雑草が妙に枯れている。なにか奇妙だ……

この風景は、2019年12月にこの地で発生した山火事と関係していた。アデレード・ヒルズの栽培面積は3832ヘクタールと、そう広くはないけれど、日本のニュースでも報道されていた山火事は、そのうちの1100ヘクタールもの畑を襲ったという。

ブドウというのは、乾燥して風が吹き、寒暖差がある土地を好む。イベント当日のアデレード・ヒルズの気温は25℃だったそうで、日本の夏と比べれば涼しいのだけれど、草が枯れているのは、乾燥しているから。さらに、アデレード州は夏、39℃にまで上昇するような暑い日が2日、3日と続くことがあるという。そうすると木々や草はさらに乾き、風は強まる。火災が起きたときは45℃の日が3日も続き、風速は60km/hだったとアキラさんは言うから、もう台風レベルで乾いた熱風が吹き荒れたわけだ。

一般的に山火事でも、灌漑されているヴィンテロパーのブドウ畑のような場所では、ブドウ樹は燃えない、といわれる。生木は燃えない、という理屈だ。とはいえ、さすがにこのときは桁違いだったようで、ブドウ樹は炎と熱による被害を受けた。熱に焼かれたブドウの樹は、放っておけば、その後、腐っていってしまう。植物に動物のような治癒力はない。

そこで、アキラさんたちは、ブドウ樹を土の上、15cmほどのところで切り、幹の横から新しい枝が生えるのを待ったという。火災はヴィンテロパーが契約しているブドウ畑と、手に入れたばかりの自社畑から、95%のブドウ樹を奪った。火災鎮火後の畑の映像が映し出されたけれど、もう、つんつるてん。切った幹から新しい枝が生えるかどうかはブドウ次第だった。

幸いにして、ブドウはかなり復活した。今年は、失われた畑の95%が、実をつけたという。とはいえ、当然、まだ、幹は枝のように細い。そこになったブドウは、ワインにして十分な品質になるかどうかは未知数。ゆえに、今年はあまり手入れをせず、ボサボサのままにしているのだという。

ヴィンテロパーは、契約畑といっても、自分たちも畑のオーナーと一緒に、畑仕事をしている。栽培面積は35ヘクタールほど。たった4人のヴィンテロパーチームは、火災後、かなり忙しかったようだ。

アキラさんは「ワイン造りの99%は畑仕事。あとは樽の選択だ」と言う。その畑が、失われようとしていたのだ。心情は察するに余りある。

ちなみに畑を愛するヴィンテロパーでは、2021年ヴィンテージから、現代の土地の名称であるアデレード・ヒルズ、という表記に、アボリジニ語の土地の名前が併記されるようになった。それは、現在ブドウが育つ土地のもともとの名前。畑への、あるいは土地への、愛と敬意が、あらわれている。

生き延びたピノ・グリ

怪我の功名、というのはちょっとポジティブすぎる言い方だけれど、火事のあと、焼けた倉庫は建て直し、電力をソーラー発電としたという。また、着任して畑のそばに住んでいたアリソンさんというワインメーカーは、本人は無事だったものの、着任早々に家が焼失してしまった。その跡地に、今後、セラードアをつくる予定があるそうだ。

1ヘクタールほどの区画のピノ・グリは火災を生き延びた。ゆえにこのイベントでは、ピノ・グリらしい、ぎゅっと実の詰まった房を見ることができた。その色はもはやグリ、つまりグレーを通り越して、ほとんど黒ブドウといった風体。面白いのは、そのピノ・グリの畑が、ネットに覆われていることだ。これ、カンガルーよけなのだという。山火事で森を失ってしまったカンガルーが、ブドウを食べに来てしまうのだそうだ。鹿の被害、というのはワイナリーでよく聞くけれど、カンガルーが来るとは、さすがオーストラリア。とはいえ、火災を生き延びた貴重なピノ・グリをここでカンガルーにあげるわけにはいかないので、巨大なネットで防御している。ちなみにとなりのピノ・ノワールは火災復活組のため、今年は防御していない。

今回、このツアーの参加券にかならずついてくるワイン『ブラックラベル PGR』は2019年ヴィンテージ。名前のPGはピノ・グリの頭文字なので、まさにここの、火災を生き延びたピノ・グリだ。ちなみにRはリースリング。なんだか、感慨深い。生産本数はたったの2218本。定番商品ではなく、スポット的に販売される品で、すでに、ワイナリーにはストックがほとんどないのだという。

バックラベルを見ると、FAST TALKING GIRS+LEMON ASCCCIDITYと書いてあって、これは、「早口でたくさんしゃべるピノ・グリとレモンの酸味」という意味だそう。味わってみると、この表現、言い得て妙だな、とおもってしまう。あえていうなら、レモンの酸味といってしまうのはちょっともったいない。たしかに香りは柑橘的で骨太、最初にちょっと刺激的な酸の印象もあるけれど、全体的には酸味はまろやかでエレガントだし、余韻もキリッとした酸味が長く続く。20%のリースリングがかなり効いているのだとおもう。レモンの酸よりずっと上質だ。一方で、食欲をかきたてる苦味、あの、肌の黒いピノ・グリの果皮のおかげか、ちょっと日本茶のようなポリフェノールの雰囲気は、おしゃべりなピノ・グリだろう。

最初に言った、冷涼産地でここ数年、ピノ・グリが人気な理由はこれだとおもう。この食欲をそそるピノ・グリの複雑さが、料理に合うのだ。

それでアキラさんが、このワインに合う料理、として用意していたのが、アサリとエビを蒸したもの。そこに、ネギ、イタリアンパセリ、コリアンダー、ガーリックにスパニッシュオニオンが合わさっている。アキラさんはさらに仕上げにオリーブオイルをかける。ああ、これは絶対、おいしいやつだ……オンラインツアーのダメなところは、これが食べられないところ。せめて香りくらいは、伝わらないものか。

「飲みやすいワイン」を目指して

人類のテクノロジーの未熟を呪いつつ、夕飯はこのままシーフードか……とおもっていたところに、さらに美味しそうなものが登場した。ちょっとココナッツみたいな、牛肉の塊だ。2kgくらいあるのだという。オーストラリアといえばバーベキュー。ガスのグリルにのせられて、長時間焼かれた肉の塊は、外はカリカリ、中はピンク色。

合わせるワインは『アーバン・ワイナリー・プロジェクト レッド No.7』という赤ワイン。高い方のチケットを買うと、手元に届く。品種はシラーズ 65%に、イタリアはアルト・アディジェの固有品種、ラグレインが35%ブレンドされている。こういう珍しい品種が出てくるのもオーストラリアならでは。

肉に合わせる、といっても、今回のような焦げた牛肉は、意外とタンニンや樽香が強い普通の赤ワインには合わない。これが合うのは、このワインのような、クールな赤だ。このワイン、タンニンは強いわけではなく、むしろちょっと辛い感じ。酸味との折り合いがすごくよくて、いわゆるマウスウォータリングと言われる、口の中に唾液がでてくるような味わい。ジューシー、あるいは、日本人的には梅干しを想像するのもいいかもしれない。香りと味わいのギャップもなく、ちょっとイチゴのような甘みと、シャキっと目が覚めるような、凛とした酸味のバランスも見事。これが造れてしまう、というのは、産地の個性を知り尽くし、その土地のブドウから潜在能力を引き出しきれる、小規模ワイナリーならでは。また、このワイナリーには伝統がない、というのも、プラスに働いているはずだ。受け継がれてきた伝統がある場合、いくら小規模でも、ここまで思い切ったワインは造りづらいだろう。

ヴィンテロパーが生まれたのは、2008年。デヴィット・ボワリー氏は、いかに優れたワインが造れたとしても、普通にやっていたら、新しいワイナリーであるヴィンテロパーの名が世に知られることはない、と考えたという。そこで2011年に「アーバン・ワイナリー・プロジェクト」を開始。2013年から、収穫したブドウをアデレードに借りた会場に持ち込み、そこで、除梗、搾汁、足踏みといったワイン造りを体験できるワイン会を催すようになった。このとき、ラベルも親しみやすいよう、現在のグラフィティっぽいデザインへと変更。ラベルのデザインも使われる品種も毎年変わる。バックラベルには、このアーバン・ワイナリー・プロジェクトに参加した人の名前が、ランダムに記されている。『アーバン・ワイナリー・プロジェクト レッド No.7』は、その名の通り、この企画から生まれたワインだ。ヴィンテージは2018年。2011年から始まって7回目だからNo. 7。

いまでは、オーストラリアのワインショップで見かけない店のほうが少ない、というヴィンテロパーのワイン。アキラさんは「飲みやすさ」がそのアイデンティティだという。それは、フレンドリーでモダンで、今晩はシーフードにするか、ステーキにするかを悩んでしまうスタイルのワインの味や香りだけでなく、デザインや企画、販売方法にまで及んでいる。

Vinteloperという名称は、inteloper、つまり、みんなとは違うことを言う人、という意味の英語に、フランス語でワインを意味するVinがくっついている。ワインでみんなと違うことを言う人。ワインで空気を読まない人。それって、ワイン好きがオーストラリアのワインに、期待していることではないだろうか。

ほかではできないようなブレンドで、おもいもよらない醸造方法で、造られたワインとの出会い。そして、空いたボトルを飾ってしまいたくなるようなデザイン。「私がいいとおもうワインは、こういうワインだ。」そんな、造り手の声や匂いがボトルから感じられたときに、ワイン好きは、にんまり笑顔になってしまう。

ご紹介したワイン・生産者

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ライター紹介

Profile: 鈴木文彦
東京都出身。2017年より、ワインと食のライフスタイル誌『WINE WHAT』を出版するLUFTメディアコミュニケーションの代表取締役。2021年に独立し、現在はビジネス系ライフスタイルメディア『JBpress autogorah』の編集長を務める。

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