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ワインラベルの野鳥たち ~神の使い「鷺(サギ)」に愛されたワイン、シャトー・ポール・マス~

ワインラベルの野鳥たち ~神の使い「鷺(サギ)」に愛されたワイン、シャトー・ポール・マス~

ワインのラベルになった野鳥と、そのエピソード。読んで飲んで楽しむ連載コラムの第二弾。鷺をモチーフにしたヨーロッパNo.1ワイナリーのお話し。

「昔むかし、南フランスを流れるエロー川に一羽のヴィニウスという名前の鷺(サギ)が棲んでいました。ヴィニウスは川魚を食べて暮らしていましたが、ある日、川向こうの丘から漂う良い香りに誘われて、その丘のほうへ飛んでいきました。そこには太陽の光を浴びて美味しそうに熟れたブドウがなっていました。ヴィニウスは思い切ってそれを食べてみました。なんという美味しさ!ヴィニウスは一口でそのブドウの虜になりました。夢中でブドウを食べたヴィニウスの喉はその色で赤く染まりました・・・」

この伝承を大切に守り継ぐワイナリーがある。南フランス、ラングドック地方の「ドメーヌ・ポール・マス」だ。このヴィニウスの姿をワイナリーのロゴにしている。

※音量あり:ご注意ください ↓

鷺はもともと水辺に生息する鳥だ。海岸や、山地の水辺や水田で、魚や甲殻類、カエル等を食べる。そんな鳥がわざわざ川を超えて丘にあるブドウを食べに来たというのだから、そのブドウはさぞ美味しかったに違いない。

神秘の鳥、鷺

動物には古来より「神の使い」とされてきたものがあるが、鷺もその一つだ。日本では五穀豊穣のシンボルでであり、「鷺」の名前が付く神社は非常に多い。特に白鷺は縁起が良いものと信じられてきた。白鷺にまつわる話は数多くあるが、一例を挙げると、日本最古の温泉の一つといわれる愛媛県の道後温泉は、白鷺によって発見され、人々がその霊験を知って入浴したと伝わっている。“足に傷を負った一羽の白鷺が岩間から湧き出る温泉を見つけ、その足を湯に浸したことで傷が完治し、元気に勇ましく飛び去った”ことが郷土地誌に書かれており、この伝承は大切に受け継がれ、地域の至るところに白鷺のモチーフを見ることができる。

海外でも鷺は神聖な鳥である。古代エジプトでは「ベンヌ」という聖鳥が崇められていたが、そのモチーフになったのが青鷺(アオサギ)である。ナイル川を中心に栄えた古代エジプトにおいて、青鷺は身近な存在であった。太陽を神と信じた人々は、ナイルの川面から朝日を浴びて飛び立ち、夕日を背にねぐらに戻る青鷺を神々しく感じたことだろう。ベンヌは夜になると太陽神ラーの神殿にある炎に飛び込んで死に、次の朝に同じ炎の中から生まれると信じられ、死と再生を繰り返す鳥、つまり不死鳥として崇められていた。そして、後にヨーロッパに渡り、「フェニックス」のモデルになったといわれている。

ヨーロッパNo.1のワイン生産者、ドメーヌ・ポール・マス

話をワイナリーに戻そう。オーナーのマス家は、ラングドック地方のカルカッソンヌ近郊で1892年からブドウ栽培を行ってきた。最初の所有畑は9haだったが、代を重ねるごとに着実に面積を増やし、3代目のポール・マス氏の時代には120haまで拡大するに至った。1987年、そのうちの35haを息子で現オーナーのジャン・クロード・マス氏が継承し、13年後の2000年に「ドメーヌ・ポール・マス」を設立した。ここからワイナリーとしての新しい歴史が始まる。

ジャン・クロード・マス氏のワイン造りのモットーは「高品質であると同時に低価格であること」。「お手頃」を通り越して「低価格」と言い切るところが潔い。歴史あるブドウ栽培農家の豊富な知識と経験、鍛え抜かれた鋭い味覚、そして消費者のニーズを捉える類まれなビジネスセンスを備えたジャン・クロード・マス氏は、伝統を尊重しながらも新しい考え方や手法を次々と取り入れ、“超”ヴァリュー・ワインを生み出してきた。

その業績は数々の輝かしい評価に表れている。2006年にワイン業界から初の快挙となる「最優秀国際起業家」(米アーンスト&ヤング)を受賞したのを皮切りに、2008年「ニュー・ウェーブ・オブ・ザ・ワイン」としてフランスの明日を担う30人の醸造家に選出(仏L’EXPRESS誌)され、「ワイナリー・オブ・ザ・イヤー」(英ガーディアン紙)等を次々と受賞。2017年「ベスト・フレンチ・ワイナリー」(独Mundus Vini)でフランスNo.1となり、2020年に米の有名ワイン評価誌ワイン・エンスージアストから「ヨーロピアン・ワイナリー・オブ・ザ・イヤー」を受賞、遂にヨーロッパNo.1の称号を得た。

彼はもっとラングドックのワインの魅力を世界に伝えたいと本拠地以外の地域のワイン造りにも力を入れている。現在では各地に850haの自社畑と1,500ha以上の契約畑を有している。畑は広範囲に分布しており、多彩なテロワールで育まれた地ブドウから国際品種まで約45種類のブドウが栽培されている。これらのブドウを最大限に活かし、個性に溢れた多種多様なワインを世界60カ国に届けている。

ポール・マスの原点「シャトー・ポール・マス クロ・デュ・ミュール」

今回、私がおすすめしたいのは、上級キュヴェの「シャトー・ポール・マス クロ・デュ・ミュール」だ。「クロ・デュ・ミュール」はワイナリーの原点となるモンタニャックにある自社畑の中の単一畑の名で、この畑で採れるブドウだけを使用している。シラーを中心に、グルナッシュ、ムールヴェードルという南仏を代表するブドウ3品種をブレンド。一年を通じ、日照時間が長く、降雨量の少ないラングドック地方で採れるブドウは完熟し、力強い果実味が特徴。香りはカシス、スミレ、ブラックベリーを想わせ、かつスパイシー。ほのかにカカオやコーヒーの香りも。熟れた黒果実の味わいが口いっぱいに広がり、飲みごたえのあるフルボディだが、タンニンがきめ細やかで舌触りはなめらか。フレンチオークとアメリカンオークの樽で9カ月しっかりと熟成され、香ばしい焦げ感とともに、力強さだけでなくエレガントさも併せ持つ上質なワインに仕上がっている。グラン・ヴァンの風格を備えながら、2,000円台前半とは驚きでしかない。

このワインは、ジャン・クロード・マス氏の一番のお気に入りのワインだという。自分のルーツ、マス家の原点への想いが込められたワインと言えるだろう。常に新しいことに挑戦し、ひたすら走り続け、たった一代でヨーロッパNo.1のワイン生産者として国際的に大成功を収めたジャン・クロード・マス氏が、このワインを飲んだとき、ほっと一息ついている姿が目に浮かぶ。そして、ふと原点に立ち返り、また明日へ向かって邁進する気力を得ているのではないかと想像する。

神の使いが愛したブドウから生まれたワイン、そして、ヨーロッパNo.1の男が愛するワイン。何かスピリチュアルな力と同時に、現実世界を力強く、かつクレバーに前進する力を与えてくれるような気がする。ちょっとお疲れ気味のときや、これから何かに挑戦したいけどなかなか勇気が出ないとき、ぜひお試しあれ。背中を押してくれること間違いなし。

ご紹介したワイン・生産者

  • Chateau Paul Mas Clos des Mures
    フランス
    フランス
    • 2016

    Domaines Paul Mas

    ドメーヌ・ポール・マス

    Chateau Paul Mas Clos des Mures

    シャトー・ポール・マス クロ・デ・ミュール

    750ml, 2,200 yen

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フランス
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Domaines Paul Mas

ドメーヌ・ポール・マス

Domaines Paul Mas
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