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オリーブオイルで絶品に。ステーキの概念を変えた肉料理とキアンティのおはなし

オリーブオイルで絶品に。ステーキの概念を変えた肉料理とキアンティのおはなし

イタリア・トスカーナで出会ったステーキは、概念が変わるおいしさ。日本でも再現できるイタリア流肉料理には、同じ地方の赤ワイン「キアンティ」を合わせて。

「最高級A5ランクの和牛!」などとテレビで華々しく牛肉の塊が映し出される時の映像を思い浮かべてほしい。肉全体が白い脂で包まれていて、お肉自体の中にも網目状の脂、いわゆる「サシ」というものが入った牛肉が出てきてはいまいか。口の中に入れるとじゅわっと広がる脂の旨味。とろけるような肉の柔らかさ。世界で「WAGYU」と呼ばれる我が国のプレミアム食材だ。私はそれを焼いたものこそがステーキだとずっと思ってきた。

イタリアで出会ったTボーンステーキ

私は若いころから、胃腸が弱かった。
友人と海外旅行に行くと、すぐに現地の食事、特に油で胃を壊してしまい、滞在中何も食べられなくなる、ということがよくあった。フランスにいって、連日続くバターたっぷりの食事にやられ、大晦日にシャンゼリゼ通りで倒れたこともある。そんな私にとって「和牛」や「ステーキ」は、ほんの少しだけ楽しむもの、という認識だった。


モトックスに中途入社し何年か経った頃、イタリア出張に行く機会が巡ってきた。大きなワイン展示会に参加したり、生産者に直接会えたりすることはとても楽しみだったが、先輩から事前に聞かされた話が心配の種になっていた。それが「この出張では生産者との会食の回数が多いこと」そして「毎回の食事の量が多い」こと。「食べきれるんだろうか・・・残してしまったら失礼なんだろうか・・・」と、私と私の胃袋は未知なる恐怖に震えた。


そしてついにトスカーナのワイナリーで、夕食をご馳走になる時がやってきた。台所には肉を焼くためのかまどがあり、「今からここでステーキを焼くから待ってて」と言われたので、「来るぞ・・・来るぞ・・・」とカバンからそっと胃腸薬を出してジーンズのポケットに忍ばせた。にこにこと当主がもってきてくれた白い紙包みには、とてつもなく分厚い大きな牛肉が2枚。それを2枚の網で挟み、さっきのかまどの炭火で焼いてくれた。そして焼き上がったステーキを見て驚いた。
「私の知るステーキとは違う!」

このステーキ、『ビステッカ・アッラ・フィオレンティーナ』は、いわゆるTボーンステーキ、といわれるもので、自分が今まで見てきた日本のステーキとは全く違う見た目をしていた。すでにホストによりカットされたT字型の骨の周りについた肉は全く脂が見えない赤身肉。そして、かなりレアな状態だった。
これに塩、そしてオリーブオイルをかけていただいたときに、そのさっぱりとした味わい、そして噛み締めるごとに出てくる肉そのもののうま味に「このステーキならたくさん食べられる!」と目から鱗、そしてほっぺたが落ちた。

トスカーナの郷土料理 ビステッカ・アッラ・フィオレンティーナ

ビステッカ・アッラ・フィオレンティーナ(フィレンツェ風ステーキ)はトスカーナを代表する郷土料理の1つ。1500年代、フィレンツェで行われた祭りで市民に振舞われた骨付き牛肉の炙り焼きを見て、イギリス商人が「ビーフ・ステーク」と言っているのがフィレンツェの人の耳には「ビステッカ」に聞こえたのでこの名前になったそうだ。

イタリア全土でビステッカは食べられているものの、やはりトスカーナでは特別な一品で、特にキアーナ牛、というブランド牛のものは珍重される。真っ白な体の色が特徴のキアニーナ(キアーナ)牛は数が少なく、食べたければフィレンツェのレストランでも予約の時に「キアーナ牛で」と念を押さなければいけない。なるほど、あの日の食卓で、にこにこしながら当主が「本物だから!」と何度も言い、その顔が誇らしげだったのはそういった理由だったのか。

赤身肉の美味しさ、とともに驚いたのが「牛肉にオリーブオイルをかける」こと。日本のサシ入りステーキだと考えられないが、これがじつに美味しい。フレッシュなイタリアのオリーブオイルは「緑色の味」がする。緑色の味って何?となるかもしれないが、実際に味わうと納得してもらえる表現だと思っている。これをお肉と一緒に味わうと、少しほろ苦さのあるハーブを一緒に食べているような爽やかさがあってたまらない。べたっとした油っぽさは皆無で、むしろオイルをかけた方がさっぱりと感じる。

日本でも再現できるイタリア流ステーキ

それからというもの、我が家でたまに牛肉を食べる時は赤身の塊肉を購入し、庭に炭火を起こしていい具合にレアに仕上げ、岩塩、オリーブオイルをたっぷりとかけて食べるようになった。Tボーンにはトライしたことはないが、和牛に比べて断然リーズナブルにネットで質のよい赤身肉を手にいれることができる。その分、ソースとなるオリーブオイルはよいものを選ぶようにしている。


我が家の”肉用”オリーブオイルは、トスカーナで代々キアンティを造るワイナリー「グラーティ」のエクストラヴァージンオリーブオイル。オイルそのままを味わうと、喉がひりつくくらいのスパイシーさがあり、青いリンゴ、クレソンやルッコラのような「青緑色の風味」が鼻から抜ける。これこれ。この風味がたまらない。これをお肉にたっぷりとかけ、ソースのように絡ませながら食すのだ。

肉にあうオイルとワインを造る「グラーティ」

「グラーティ」はフィレンツェから車1時間ほど離れたところにあるキアンティ・ルフィナの街を一望できる高台に位置するワイナリー。その歴史は長く、170年以上前から5世代にわたり、家族経営でワインを造り続けてきた。

オリーブ畑があるのは標高250mの高地。主な害虫であるオリーブミバエにとって寒すぎるため、化学農薬を使う必要がない。鮮度を保つために手間ひまかけて低温で絞ったオイルは、爽やか&スパイシーな味わいで、まさにオリーブジュースそのものといった感じだ。


グラーティは、「ブドウ畑の中にオリーブの樹を植える」という昔のトスカーナによくあったスタイルの畑を今なお所有している。以前はブドウの植樹率が今よりずっと低く、オリーブの樹とブドウの樹を交互に植える余裕があったのだ。2つの植物を混在させた結果として“ダイバーシティ(生物多様性)”が生まれ、古い樹は丈夫で今でも実を付けている。昨今ワイン生産の現場ではダイバーシティの重要さが叫ばれており、最近ではイタリアの他のワイナリーで昔の様にオリーブとブドウを交互に植えるところも増えてきているという。

あらためて実食して感じた「相性の良さ」

同じ土地で生まれたオリーブオイルとワインが合わないわけがない。ということで、あらためて赤身肉のステーキを焼いて、「グラーティ」のエクストラヴァージンオリーブオイルと赤ワイン「キアンティ ルフィナ ヴィッラ・ディ・ヴェトリチェ」を合わせてみた。

赤く輝くワインが注がれたグラスからは、新鮮な赤いフルーツの香りが溢れてくる。一口飲むと、口の中がぱあっと明るくなるような、とにかくフレッシュな果実の風味が広がる。透明感があり、それでいて、余韻に完熟したフルーツの風味が長く残るとてもチャーミングなワインなのだ。
キアンティ・クラッシコのような引き締まった酸やタンニンの屈強さのあるサンジョヴェーゼ、とは全く違う。なんというか、飲むと微笑みが自然と浮かんでくるような、そんな印象だ。

オリーブオイルは、というと、非常にスパイシーで爽やか。グラーティらしい、フレッシュハーブや青りんごのような風味がしっかりとある。これをステーキにたらり、と回しかけ、そこに先ほどのキアンティを一口。赤身肉の甘さ、旨味を引き立てつつ、ワインにあるフレッシュな酸が口の脂を綺麗に拭ってくれるので全くしつこさを感じない。今回は肉を焼いた後十分に休ませてから、ローストビーフのように薄く切って食べたので、特にこのワインのチャーミングさがぴったりだった。

「ああ、美味しい」と食べている皆の顔も笑顔で、それを見ながらにこにこワインを飲んでいたら、あっという間に肉はきれいに無くなっていた。そうそう、これでいい。蘊蓄なんかはいらず、このみんなの食べっぷりが、相性の良さを証明してくれている。そして今後はぜひ、あなたも試していただきたい。

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イタリア
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Azienda Agricola F.lli Grati

アジィエンダ・アグリコーラ・グラーティ

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