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【シネマ×ワイン】ナポリが舞台の「愛と銃弾」と、カンパーニアのワイン「マストロ」

【シネマ×ワイン】ナポリが舞台の「愛と銃弾」と、カンパーニアのワイン「マストロ」

物語の舞台はナポリ。この街から去ったものは、皆、一様にナポリを恋しく思う。物語の舞台となったナポリとナポリを州都とするカンパーニア州のワイン「マストロ」のマリアージュをご堪能ください。

イタリアはモザイクでできている。近代国家としての歴史は比較的浅く、リソルジメントという統一運動が起きたのは、19世紀のこと。それまでは、雪深いアルプスから地中海の真ん中に浮かぶシチリアまで、たくさんの国々に分かれていた。今では20の州で構成されているが、その下の県にあたるプロビンチャや市町村にあたるコムーネごとに、いや、教会の鐘楼ごとに少しずつ違いがあって、その特色は方言、食習慣、景観などに表れている。だからこそ、イタリアには何年つきあっていても飽きないし、知れば知るほど、歴史、自然、文化の幅と奥行きに魅了されることになる。

たとえば、生産量世界一のワインを例に取ろう。僕も年がら年中イタリア各地のワインを飲んでいるが、一度たりとも「イタリアのワインってのはね…」などとしたり顔で語ろうなどと思ったことがない。なにせ、国際的に知られるメジャーなものから希少なものまで、ぶどうの種類が2000以上もあるのだ。そして、それぞれに畑の地理的条件があり、年ごとの気象条件があり、製法の違いがあり、ブレンドまであるわけだから、一生をかけて楽しむ価値があるというもの。

こうした多様性は、面白いことに映画文化にもある。サイレント期にハリウッドへじゃんじゃん輸出していた史劇を皮切りに、ありとあらゆるジャンルがイタリアで花開いてきた。その中でも、国際的な映画祭で賞を得るような「高尚な芸術」としての映画ではなく、大衆が映画館で興奮するような「通俗的な娯楽」としての映画に愛着を持ち続けてきた監督が、マネッティ・ブラザーズだ。

© MODELENE SR・MANETTI bros. FILM SRL 2016

2000年に『吸血鬼ゾラ』で長編デビューを飾ったふたりは、一貫してジャンル映画にこだわってきた。ホラー、スリラー、ミステリー、マフィア、警察、スパイ、泥棒、冒険、ミュージカル、SF。70年代から80年代のものを中心に、自分たちが偏愛してきた国内外の映画の要素を、マネッティ・ブラザーズは作品ごとにうまく磨き上げて蘇らせてきた。その真骨頂が、『愛と銃弾』である。

この作品におけるふたりは、言わば、ジャンルのブレンダー。葡萄のブレンドによってワインの味に奥行きが出るように、この兄弟はジャンルを巧みにブレンドして、やはり通俗的でありながら、なんとイタリア最高の映画賞ダヴィッド・ディ・ドナテッロで作品賞を獲得するという偉業を成し遂げてしまった。これには僕も驚くと同時に、痛快な気分にもさせてくれた。あらすじはこうだ。ナポリのマフィアのボスであるヴィンチェンツォは、自分の死を偽装して妻マリアと国外逃亡する計画を立てるが、病院で看護師ファティマに生きている姿を目撃されてしまう。ヴィンチェンツォは部下の殺し屋チーロにすぐさま殺害を命じたのだが、実はファティマはチーロがかつて深く愛した女性だった…。

筋立ても面白いが、文字だけではとてもじゃないが伝えきれない魅力がこの作品にはある。『007は二度死ぬ』や『フラッシュダンス』など、海外の名作オマージュやパロディーを盛り込みながら、リズミカルでいて暴力的かつ残酷な、なおかつロマンティックで当たり前にスリリングな… と、こんな具合に形容詞をいくつも並べ立てないと表現できない、全体としては「見たことがないタイプ」の映画になっている。

原題はAmmore e malavitaで、直訳すれば「愛と極道」といったところだが、よく見ると、アモーレ(愛)のつづりが、標準イタリア語とは違っていて、mがひとつ多い。これは、ナポリ弁の表記。「好きだよ」が「好っきゃねん」と関西弁になっているようなものだと思ってもらっていい。役者たちが話しているのも、実はコテコテのナポリ弁で、それが郷土色を出すだけでなく、笑いの要素としても機能している。僕の会社、京都ドーナッツクラブが字幕制作をしているのだが、配給側に止められない限り、字幕をすべて関西弁にしてやろうかと思ったくらいだ。読みにくいことこの上ないので断念したのだけれど、鑑賞にあたっては、脳内で適宜日本の方言に置き換えてみると面白いかもしれない。

ところで、改めて観てみると、気づいたことがある。それは、登場人物の多くが、ナポリの街を愛しながらも、ナポリからの退場を余儀なくされることだ。裏社会の力学によって追い出される者、逃走する者、ナポリどころかこの世からもいなくなる者(数はこれが一番多い)。またある者は移民として海外で暮らしていたり、留学していたりする。この物語の後、他の街から、あるいはあの世から、彼らは一様にナポリを恋しく思っているに違いない。そして、僕たち観客も、「ナポリを見て死ね」という有名な格言通り、ナポリが恋しくなる。

© MODELENE SR・MANETTI bros. FILM SRL 2016

そんな時には、ナポリとナポリを州都とするカンパーニア州のワインを飲むに限る。映画を観ながら、あるいは鑑賞後に酔いしれていただきたいのは、『マストロ』という名の赤と白。1750年頃からワイン造りを始め、土地の品種を大切に守り続けてきたマストロベラルディーノという生産者による逸品で、ナポリの街中で親しまれている地元の味だ。単一の品種ではなく、赤はアリアニコという南イタリアの代表品種に名脇役のピエディロッソ、白は4種類の土着品種のブレンドであることもマネッティ・ブラザーズのスタイルに合うだろう。とはいえ、ウンチクを語るよりも肩肘張らず食中酒としてグビグビ気軽に飲めるタイプであるのも良い。

カンパーニア州は、食の宝庫だ。スパゲッティ発祥の地であり、世界最高のピッツァが食べられるところでもある。水牛のモッツァレッラも魚介類もあれば、特徴的なスイーツも色々。それなのに、意外にもワインのことはあまり知られていないのはもったいないことだ。マネッティ・ブラザーズという、きっとあなたにとって新しい才能に出会うとともに、カンパーニア州やナポリのワインにも出会っていただきたい。

イベント情報

そんなマネッティ・ブラザーズの映画が日本で見られる!
イタリアB級映画、最新にして最高峰 マネッティ・ブラザーズ特集上映

11月11日(金)~17日(木) UPLINK京都にて上映
11月18日(金)~24日(木) シネ・リーブル池袋にて上映
11月25日(金) 枚方蔦屋書店トークショー
11月30日(水)~12月11日(日) オンライン上映

詳しくは以下のサイトでご確認ください。

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マネッティ・ブラザーズ特集上映 特設サイト

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映画・ワイン 商品情報

© MODELENE SR・MANETTI bros. FILM SRL 2016

タイトル:愛と銃弾
2017年/イタリア/カラー/134分
原題:Ammore e malavita
監督:マネッティ・ブラザーズ
出演:ジャンパオロ・モレッリ、セレーナ・ロッシ、カルロ・ブッチロッソ

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Mastroberardino Societa' Agricola Srl

マストロベラルディーノ

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