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【シネマ×ワイン】『グリーンマイル』ジョン・コーフィに渡したい1本

【シネマ×ワイン】『グリーンマイル』ジョン・コーフィに渡したい1本

泣ける映画を観ながらワインを飲むのが大好きなライターが書いたコラム。1930年代のアメリカを背景にした名作と、同時期の味をオマージュして造られたワインを合わせて楽しむ。




ワインを飲みながら映画を見て、涙を流すことが私の隠れた趣味だ。
ストレスを発散するのに泣くというのは良いことらしい。20代後半になって、年々涙を流す機会は減ってきているが「涙活」は私にとって有効で、お酒と映画の力をかりて時々ひとりで泣いている。

本当のことをいえば映画だけでも泣けるのだが、ワインは映画により一層深みと持たせてくれるツールだ。ワインにはそれぞれのバックグラウンドや想いが込められている。そんなストーリーと映画をリンクさせて、「この映画にはこのワイン」を探すのもまた楽しみの一つである。

私の泣きたいときにみる映画ランキング1位は『グリーンマイル』。1999年にアメリカで公開され、日本でも翌年上映された。トム・ハンクスが主演を務め、スティーヴン・スピルバーグをして「途中で堪えきれずに、4回号泣してしまった」と言わしめた超名作である。

舞台は大恐慌時代。アメリカ南部の刑務所に、少女2人を殺害して死刑判決を受けたジョン・コーフィ(演:マイケル・クラーク・ダンカン)が入所するところから始まる。純粋な心を持つ彼は神秘的な力を持っており、刑務所内で看守のポール(トム・ハンクス)の持病を治すなどその力を発揮。いくつもの奇跡を起こしていく。ポールはジョンが無実であることを知り、彼の死刑執行を阻止しようとする。しかし、力はおよばず日に日に刑の執行される日が近づいていく。何もできない自分を悔やむポールたち。しかしジョンは人の心がわかってしまう能力から日常で起きることに疲れ、生きることより不合理な死を受け入れようとする。

アメリカの不運な時代と、極悪人のそろう刑務所。そんな暗い背景に純情なジョン・コーフィが対局に映る。どうして多くの人を無条件に助けてきた彼が、無実の罪で電気椅子に座らなければならないのか…。観客はそのようなもどかしさを抱きながらストーリーに惹き込まれていく。

私が社会に出てから6年。必ずしも自分の理想が現実するとは限らない、そんな現実に直面することがいくつもあった。決して不合理な環境に立たされたわけではなくても、社会で生きていればそんな風に感じることは起こるのではないだろうか。誰だってそんな思いを抱えながら、毎日をまた普段の日常を歩んでいる。

今はコロナ禍では我慢しないといけないことがたくさんある。ウクライナのニュースをみては、世の中で起きていることに何もできない自分に苦しくもなる。
ポールのようにジョンを助けられないもどかしさは、事の大小はあれ自分自身のやるせない気持ちに響いてくるところがある。

『グリーンマイル』を観ながら自分の経験が重なってやるせない気持ちになっているとき、希望や力を与えてくれるワインがある。『1924バーボン・エイジドダブルブラック カベルネ・ソーヴィニヨン』というカリフォルニアのワインだ。

1924年にブドウ畑を開墾したデリカート社が、禁酒法時代に密造されていたワインへのオマージュとして近年になってこのワインをリリースした。バーボン樽に漬け込まれた風変りなワインだが、これは当時を思い起こさせる一つの演出として取り入れられている。ワインの味わいがだしてくれる重々しさや、カベルネ・ソーヴィニヨンという渋さと力強さのあるブドウ品種に、その時代の雰囲気を感じ取ることができる。

アメリカでは1920年から1933年までアルコール全般の製造、販売、輸出入が禁止されていた。『グリーンマイル』の舞台になった1935年は禁酒法撤廃から2年だが、大恐慌が続く世の中だった。

禁酒法前のアメリカにはバーボンを中心としたウイスキー蒸留所が3,000軒近くあったが、施行により、多くのウイスキー職人たちは失業に追い込まれていた。ところがバーボンは医者の医療目的の処方として使用が許されており、一部の富裕層の間ではその当時もたしなまれたウイスキーだ。
※アメリカ産ウイスキーの中でもバーボンの生産はケンタッキー州に限られる。

一方でそんな時代、お酒の楽しみを諦めなかった人々もいる。街ではギャング達が密造酒を取引し、無許可の潜り酒場(スピークイージー)が営業し、酒好き達は大胆にワインをすすった。デリカート社は1924年の開墾以来ブドウの栽培、ワインの醸造を続けてきた。過酷な時代でもいつか明ける日が来ると、前向きな気持ち込めたワインがこの1924だ。バーボン樽からくる強く、強いボディはその時代の人たちの力強さそのもののようだ。

ジョン・コーフィが持てなかった未来への気持ち、このワインから感じてほしかった、と感じている。ポールのようにジョンを助けたいという人が現れたところ、希望を持たずに死を選択したジョンに、光が見えなかったかと考えると更に涙が流れる。希望を捨てずに、未来を生きていくジョンをみたかった。彼はネズミの命を救うために自分の力をだしきるような人だった。いつか彼の想いは世につながって、彼が見た良い世界に広がってくれることを願って死んで行ったのかも知れない。彼の気持ちには私はなれないかもしれない。けれど、私はこの涙から強いエネルギーをもらい、また一歩進んでいていきたいと思った。

1924 バーボン・エイジド ダブル・ブラック カベルネ・ソーヴィニヨン

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