サンセールとは
白ワインで有名なフランスの産地名です。産出されるワイン名もサンセールになります。北フランスのロワール地方に属しており、この名前をソーヴィニヨン・ブラン(ブドウ品種)とセットで覚えておくとよいでしょう。その理由はソーヴィニヨン・ブランの辛口白ワインを世界に知らしめた先駆けとなった産地だからで、現在でも良質なワインを産出し続けています。
※赤、ロゼワインについて後述しています
ソーヴィニヨン・ブランとは
ロワール地方が起源とされている白ブドウ品種です。現在シャルドネに次ぐ栽培面積を誇る白ブドウ品種で、新鮮なハーブや柑橘類を思わせるスッキリとした辛口のワインができます。今や世界中で栽培される人気品種ですが、その起爆剤となったのがサンセールでした。
サンセールやプイィでは「フュメ・ブラン(ブラン・フュメ)」の別名があり、「フュメ」(煙の意味)は、このエリアのソーヴィニヨン・ブランの銘酒に燻製を思わせるスモーキーな香りがあるからとされています(諸説あります)。
サンセールの味わい
酸味のキレがよく、ワインの味わいは新鮮そのものです。野菜の青っぽさやハーブ、猫のおしっこと表現されるムスクのような香りが複雑さを添えます。火打石と表現されるミネラル感をともないながら、爽やかな気分にさせてくれるような味わいが特徴です。
サンセールの歴史
サンセールとソーヴィニヨン・ブランは切っても切れない関係にありますが、一説ではその歴史は中世までさかのぼれるとされます。
もともとサンセールでは『シャスラ』という白ブドウを主に栽培していたのですが、19世紀後半にフィロキセラ禍にみまわれたのをきっかけにソーヴィニヨン・ブランに植え替えられました。これが1960年代の辛口ワインブームで大ヒット。世界的にサンセールの名が知れ渡るようになりました。
当時、ボルドー地方でもソーヴィニヨン・ブランが植えられていましたが、こちらの評価はあまり高くなく、醸造技術の上がった20世紀後半になってから名声を得ました。
今日サンセールがフランスのソーヴィニヨン・ブランの産地として重要視されているのには、このような評価と歴史の長さが関係しています。
ピノ・ノワールの『赤ワイン』も注目
白の1割くらいの赤ワイン(とロゼワイン)が生産されていて、品種はピノ・ノワール。ブルゴーニュほど肉付きの良いスタイルではなく、酸味がシャープと評されます。そんな軽快なピノ・ノワールが人気を集めています。
ここも見逃せない、サンセールの対岸『プイィ・フュメ』
サンセールからロワール河をはさんだ対岸に『プイィ・フュメ』という産地があります。こちらもサンセールよりワイン造りの歴史が長い重要な産地です。サンセールの個性を高く評価する声がある一方、ソフトな品のよさを感じられるプイィ・ヒュメを推す人もいます。この2産地間にはよく似た酒質のワインがあったり、一方の産地内のワインで酒質に差があったりします。土壌や生産者によるところが影響していますが、どちらにも銘酒が存在していることは確かです。
サンセールとプイィ・ヒュメの違い
プイィから南の町ヌベール方面の眺め
両岸の距離は近く、地元では「河がわれらを裂いてしまったが、ワインがわれらをくっつけた」と言われる
プイィ・ヒュメはソフトで品がよくおとなしい、サンセールはハードでパンチの効いた味わいというのが一般的な評価ですが、今ではヒュメからしっかりしたもの、荒々しさを脱したサンセールも登場しています。
土壌の違い
サンセールの土壌は3タイプあり、シャブリと似ています
- 小さな牡蠣の貝殻を含む泥炭土や粘土石灰(中生代ジュラ紀後期)
- 小石の多い石灰岩を含んだ砂利質(中生代ジュラ紀後期)
- 粘土珪土質
プイィ・ヒュメは4タイプあり、極めて複雑に折り重なっています
- 石灰岩を含む砂利質(中生代ジュラ紀後期)
- 小さな牡蠣の貝殻を含む泥灰土(中生代ジュラ紀後期)
- 石灰岩を含む砂利質(中生代ジュラ紀後期)
- 燧石(火打石)を含む粘土質(中生代白亜紀)
サンセールとプイィ・ヒュメに共通する土壌や、どちらか一方にしかないものもあります。両方のワインを飲み比べて区別のつきにくい銘柄があるのですが、条件の近い畑があることが理由のひとつになっています。
生産者
サンセールのブドウ栽培面積は、(ブドウ栽培の適地が少なく畑を拡張しにくい)プイィ・ヒュメの2倍ほどあります。とはいえ、さほど広いとはいえないエリアに約300の栽培農家と約180のワイン生産者がひしめきます。そのためサンセールにはプイィ・ヒュメに比べて個性の高い生産者が多いと言われており、それが産地の個性につながっています。
『シレックス』とは?
シレックスはケイ酸質のれき岩の土壌です。サンセールとプイィの両方を北西から南東へ貫くようにシレックスの地層帯が走っており、生産者によってはこの特徴ある土壌の畑から造られるワインに『SILEX』『Cuvee SILEX』のような名前をつけて上級のワインとして販売しています。通常のワインよりもミネラル感が豊かである場合が多いです。
関連リンク
参考 一般社団法人日本ソムリエ協会/『日本ソムリエ協会 教本2024』/一般社団法人日本ソムリエ協会(J.S.A.)/2024年 ヒュー・ジョンソン、ジャンシス・ロビンソン/『世界のワイン図鑑 第7版』/ガイアブックス/2014年 大塚謙一、山本博、戸塚昭、東條一元、福西英三/『新版 ワインの辞典』/柴田書店/2010年 山本博/『ローヌとロワールのワイン 二つの河の物語』/河出書房新社/2012年