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ワインのキホン

2番目に愛される白 『ソーヴィニヨン・ブラン』完全ガイド

2番目に愛される白 『ソーヴィニヨン・ブラン』完全ガイド

高級ワインを造るブドウ品種として、シャルドネに次いで世界第2位の『ソーヴィニヨン・ブラン』の解説。発祥、特徴、産地、合う料理などをご紹介します。

ソーヴィニヨン・ブランとは何か?

ソーヴィニヨン・ブラン(sauvignon blanc)は白ワイン用ブドウ品種の一つです。独特の新鮮なアロマが特徴的で高い人気があり、原産のフランスをはじめニュージーランドなど世界中で広く栽培されています。高級ワイン用の白ブドウ品種の中で、世界の栽培面積はシャルドネに次いで2位です(2016年時点)。

ソーヴィニヨン・ブランの特徴

ソーヴィニヨン・ブランは比較的冷涼な気候から、温暖な産地でも育つブドウ品種です。近年では涼しい産地で造られたフレッシュ感のあるものが好まれる傾向があります。石灰質の土壌を好むことと、樹勢が強いため栽培には適切なコントロールが必要であることが特徴にあげられます。若いうちは緑色の実をつけて、完熟するとやがて黄金色になります。比較的早期から中期に熟し、熟しすぎるとワインは凡庸になります。

ソーヴィニヨン・ブランの香り

ソーヴィニヨン・ブランの最も大きな特徴は、その香りにあります。グリーンハーブグレープフルーツのようなシャープでフレッシュさを感じさせます。「はっ」とさせられるような鮮烈でシャープなアロマは、一度嗅いだら忘れられない印象を与えてくれると思います。

世界中で栽培されているソーヴィニヨン・ブランは、地域によって少しずつ特徴が変わりますが、代表的な表現方法を列挙すると

「グレープフルーツ」「ライム」「パッションフルーツ」
「青芝」「青ピーマン」「ツゲ」「トマトの葉」「エニシダ」「カシスの芽」「ユーカリ」「イラクサ」など。
「ジャコウネコのおしっこ」「煙のような」と表現されることもあります。

ソーヴィニヨン・ブランの味わい

最大の特徴はアロマにありますが、味わいに豊かな酸味を伴うことも特筆すべき点です。この2つの要素が互いに引き立てあうことで、ワインの味わい全体が爽やかさをまといます。フルーティさを例えるなら「柑橘類」。グレープフルーツ、ライム、パッションフルーツ、マンダリンオレンジなど。ボディは軽め~中程度で、輪郭のくっきりとした味わいです。そこに、石灰岩や石のようなミネラルのニュアンスが加わり、複雑さが混じります。ワインの色合いは薄いことが多く、緑がかった白色をしています。

発祥

ソーヴィニヨン・ブランの発祥はフランスのロワール河周辺とされています。1534年の書物にロワール地方の郷土料理(パイの一種)とソーヴィニヨン・ブランの古い別名である「FIERS」が一緒に登場することや、1783~4年のサンセール、プイィ(ともにロワール地方)の記録にソーヴィニヨン・フュメ、ブラン・フュメの名前で書かれていることがその根拠です。それに加えDNA解析の結果もロワール河発祥を支持しているため、ロワール発祥はほぼ間違いないとされています。

交配

ソーヴィニヨン・ブランは品種交配によって生まれました。その片親はサヴァニャン(ジュラ地方の主要品種のひとつ)であることが判明しています。ただし、もう片親は不明です。ロワール地方の有名なワイン用ブドウ品種シュナン・ブランもサヴァニャンが片親でもう片親は不明。ソーヴィニヨン・ブランと姉妹の品種であることがわかっています。

カベルネ・ソーヴィニヨンの親品種

ソーヴィニヨン・ブランは世界で最も有名かつ重要なワイン用ブドウ品種のひとつ、カベルネ・ソーヴィニヨンの片親です。カベルネ・ソーヴィニヨンは、ソーヴィニヨン・ブランがロワール地方からボルドー地方へ伝わったとき、ジロンド河周辺でカベルネ・フランと自然交配して生まれました。

ソーヴィニヨン・ブランの亜種

ソーヴィニヨン・ブランは、ほかのブドウ品種でもしばしば見られる突然変異種のあるブドウです。やや色づきのあるソーヴィニヨン・グリ(グリ=灰色の意味)と、黒ブドウのソーヴィニヨン・ルージュが派生しています。

別名

発祥の地であるフランスのロワール地方では、特産地のサンセールやプイィで「フュメ・ブラン(ブラン・フュメ)」と呼ばれることがあります。「フュメ」は「煙」の意味で、このエリアのソーヴィニヨン・ブランの銘酒に燻製を思わせるスモーキーな香りがあるからとされています。

19~20世紀初頭のドイツでは「ムスカート・シルヴァーナー」と呼ばれていました。

歴史

ソーヴィニヨン・ブランは18世紀前半にボルドー地方やオーストリアなど近隣の生産地に伝わって栽培されるようになりました。

ボルドー地方に伝わったのは1710~20年頃とみられ(「白ワイン用のブドウはほとんどがSauvignonである」と記録がある)、世界最高のワイン研究機関「ボルドー大学」のお膝元で研究が進みました。それまで冴えなかった品種でしたが醸造技術の進化とともに躍進しました。1960年代の伝説的教官エミール・ペイノー氏はステンレスタンクでの低温醗酵を提唱し、今日ソーヴィニヨン・ブランの標準になっているフレッシュ&フルーティなスタイルの先駆けとなりました。80年代にはドニ・デュブルデュー教授がスキンコンタクトと樽醗酵、バトナ―ジュを組み合わせるとこで華やかで複雑、厚みのあるスタイルを生み出しました。そして1980年代にはソーヴィニヨン・ブランのワインがニュージーランドで大成功して世界を驚かせました。

世界の栽培面積

高級ワインに使われる白ワイン用ブドウ品種としては、1位シャルドネの201,649haに次いで2番目の規模で124,700haの生産面積を誇ります。世界の生産面積シェアをみてみると、原産国であるフランスに続いて、ニューワールドと呼ばれる生産国が続きます。シャルドネと並ぶ「国際品種」として地位を築いているのがわかります。

※面積の単位:ha

面積面積データ年
フランス
31,773
-
-
2019-20
ニュージーランド
30,079
-
-
2021-22※1
チリ
15,224
-
-
2020
南アフリカ
9,878
-
-
2021
アメリカ合衆国
7,664~
カリフォルニア
6,494
2021
ワシントン
1,125
2020-21※2
ヴァージニア
45
2021
スペイン
7,391
-
-
2021
オーストラリア
7,331
-
-
2021※3
モルドバ
6,909
-
-
2016
ルーマニア
5,594
-
-
2016
イタリア
3,935
-
-
2016
ドイツ
1,803
-
-
2021
ギリシャ
999
-
-
2020

栽培面積が公表されていない地域の数値は、参考データから算出した参考値です。
※1 ブドウ栽培面積41,603ha(2022)、収穫量シェア72.3%(2021)で算出
※2 ブドウ栽培面積24,281ha(2020)ブドウ生産量179,600t、ソーヴィニヨン・ブランの生産量8,320t(2021)から算出
※3 ブドウ栽培面積146,244haとブドウ生産量2,028,428t、ソーヴィニヨン・ブラン生産量101,685t(2021)から算出

世界の産地

ソーヴィニヨン・ブランはフランスのロワール河流域、なかでもサンセールプイィ近辺でヴィンテージを写し取った伝統的で素晴らしいワインになります。ボルドー地方でも伝統的にセミヨンとブレンドされ、辛口と魅惑的な甘口ワインの両方になります。暑すぎる気候では独特の香りと酸味を失ってしまうソーヴィニヨン・ブランは、過剰な樹勢を整枝法によって抑制する技術が広まってからは南アフリカの冷涼産地や、ニュージーランド、とくにマールボロ地区で大成功を収めています。順に産地別の事情をみていきましょう。

ロワール地方(フランス)

フランス北部のロワール地方は品種の発祥と言われるだけあり世界で最も伝統的なソーヴィニヨン・ブランの産地です。とくに重要なのは『サンセール』『プイイ(プイィ・フュメ)』。ロワール河を挟んだ対岸にあるこの2地域はソーヴィニヨン・ブランを語るうえで外すことのできない重要産地です。加えて近年コストパフォーマンスに優れたソーヴィニヨン・ブランを生み出している『メネトゥー・サロン』と、サンセールに並ぶ生産量を誇る『トゥーレ-ヌ』があげられます。大多数の銘柄が瓶詰後1,2年以内で美味しさのピークを迎えますが、熟成に向いた銘柄を造る生産者もいます。

サンセール

爽やかで繊細、果実味が豊かなスタイルです。プイィ・フュメより僅かに肉付きがよく、明瞭さのあるワインになると言われますが、どちらも最上のものは同レベルにあるため優劣をつけるには飲み手によほどの熟練が必要になります。それほどにサンセールとプイィ・フュメのソーヴィニヨン・ブランは高いレベルです。サンセールの一部には『シレックス』と呼ばれるケイ酸質の石を含む地層帯があります。

プイィ・フュメ

プイィ・シュール・ロワール村で造られるソーヴィニヨン・ブランのワインは『プイィ・フュメ』と呼ばれます。サンセールより香りが高いとされ、ミネラルを伴います。そのためワインからはスリムで細長く、洗練された印象が受けられます。面積はサンセールの半分ほどの大きさです。最良の畑の多くはプイィの町の北側で、粘土とシレックスの割合が高くなっています。熟成に向き、火打石と表現されるようなニュアンスがワインに加わります。

サンセールとプイィの『シレックス』とは

シレックスはケイ酸質のれき岩の土壌です。サンセールとプイィの両方を北西から南東へ貫くようにシレックスの地層帯が走っており、生産者によってはこの特徴ある土壌の畑から造られるワインに『SILEX』『Cuvee SILEX』のような名前をつけて上級のワインとして販売しています。通常のワインよりもミネラル感が豊かである場合が多いです。

メネトゥー・サロン

ロワール河沿いのサンセールからさらに内側に入ったエリアに拡大している産地です。果実味豊かなソーヴィニヨン・ブランで、サンセールのそこそこのワインよりもコストパフォーマンスに優れていることから評判です。石灰岩の比率が高いため独特の魅力が楽しめ、太陽がふりそそぐ中での昼食に理想的な軽やかさがあります。

シュヴェルニー

サンセール、プイィの上流に位置する産地。いろいろなタイプのワインが造られる場所ですが、ソーヴィニヨン・ブランからは良質な白ワインが造られています。シャルドネやシュナン・ブランが16~40%ブレンドされて、ソーヴィニヨン・ブランらしい爽やかさとボディの両立したワインを生み出します。

トゥーレーヌ

シュヴェルニーよりさらに上流に、認められるエリアが点在しており(上部地図参照)ロワールの中では広め。アロマ豊かなソーヴィニヨン・ブランを産する地区のひとつで、親しみやすくグーズベリーのように香り、品種の特徴をよく表したお買い得なワインが造られています。

ブルゴーニュ地方(フランス)

サン・ブリ

シャルドネの故郷であり、単一品種の高級ワインを生み出すブルゴーニュ地方にあります。シャブリ地区の一部でブルゴーニュで唯一、ソーヴィニヨン・ブランが造られます。軽めのキビキビとしたワインで、近年世界的に人気の高まっているアロマチックで酸味の豊かなスタイルを造る生産者もあります。シャブリ地区らしいミネラルが感じられるのも特徴的です。

ボルドー地方(フランス)

ロワール地方から最も初期にソーヴィニヨン・ブランが伝わったボルドーでは、白ワイン用のブドウ品種として2番目に多く栽培されています。最も栽培されているセミヨンとブレンド、あるいはソーヴィニヨン・ブラン単体の辛口の白ワインとして目にすることができます。ソーヴィニヨン・グリ(濃厚なアロマと少しのボディがある)をブレンドするのがトレンドになりつつあります。

ボルドーで重要な白ワインは、高級なワインを生む『ぺサック・レオニャン』、リーズナブルで爽やかな特徴の『アントゥル・ドゥ・メール』、そして偉大な貴腐ワインのできる『ソーテルヌ』の各地区ですが、いずれでもソーヴィニヨン・ブランがブレンド(または全量)で活躍しています。

貴腐ワインはどんなワイン?世界最高峰の甘口ワインの魅力

南フランス

ラングドック&ルーション

フランスで最もソーヴィニヨン・ブランの生産が多いのは南フランスで、最大の栽培面積を誇るのはラングドック&ルーション地方(2016年データ)です。このエリアは温暖なため、ワインの酸味がゆるやかです。ハーブやグレープフルーツといったアロマはやや穏やかで親しみやすくリーズナブル。デイリーにぴったりのワインを見つけることができます。

ドイツとオーストリア

ドイツ

ドイツの白ワインは「リースリング」がその主力を担っているため、ソーヴィニヨン・ブランの栽培はごく僅かです。戦中に非ドイツ的として禁止される前、19~20世紀初頭は「ムスカート・シルヴァーナー」と呼ばれて知られていました。生産量は僅かながら国際的なトレンドを追って2000年代に生産量が急増。ヴュルテンベルク、フランケン、ファルツで少量ですが見ることができます。優良な生産者のものは品質が高いため、見つけた際には試しておきたいものです。

オーストリア

18世紀前半にフランスから輸入されて栽培されるようになりました。近年になって人気が高まっており、21世紀の最初の10年間で栽培面積は2倍に達しました。ワインのスタイルはさまざまで、リッチでクリーミーなブルゴーニュ的なスタイルにサンセールのリフレッシュ感と組み合わせたもの、ハーブ感の少ないものや、カリフォルニア的なアルコールのボリューム感が強めのものなど。シュタイヤーマーク州が半分以上の生産量を誇る最上の生産地とされています。

イタリア

固有品種の宝庫であるイタリアでは、ドイツの影響を受ける北イタリアの一部で栽培されています。国際的に知られているのは品質の高い白ワインができることで知られる、フリウリ-ヴェネツィア・ジューリア州と、とトレンティーノ-アルト・アディジェ州の2つ。ピエモンテ州やトスカーナ州のような重要産地でも、一部の有名生産者によって造られるソーヴィニヨン・ブランのワインが散見されます。

フリウリ地方

フリウリ-ヴェネツィア・ジューリア州は、イタリアで最もソーヴィニヨン・ブランの生産量が多い州です。なかでもフリウリ地方は世界的にみても高級品に分類される白ワインを輩出する産地です。イソンツォ川沿いの平地にある畑はアルプスの冷たい風とアドリア海の温かい風によって寒暖差が生まれ、ブドウに高いアルコールと酸味、屈強なミネラル感をもたらします。生産者によっては10年を優に超える熟成も可能で、若いうちに楽しむのが一般的な世界のソーヴィニヨン・ブランの中でも特異な存在となっています。

アルト・アディジェ地方

トレンティーノ-アルト・アディジェ州にある山岳地帯アルト・アディジェ地方でも、高品質なソーヴィニヨン・ブランが造られています。リゾート地として名高いボルツァーノの街は四方が山で囲まれており、南を向いた斜面で白ブドウが育てられています。アルコールのボリューム感が高く、ミネラルが豊富で固さを感じさせるスタイルでハーブのアロマはやさしめ。ガストロミックなワインになる傾向があります。

ニュージーランド

マールボロ地区(ニュージーランド)

ニュージーランドは世界をソーヴィニヨン・ブランに注目させるきっかけをつくった重要産地です。そのため新世界におけるソーヴィニヨン・ブランの王者とさえ称されています。ニュージーランドのブドウ収穫量のうち、72.3%(輸出されるワインのうち87% ※2020年データ)をソーヴィニヨン・ブランが占めていて、フランスと並ぶ一大生産国に成長しました。

華々しい成功をおさめたニュージーランドのソーヴィニヨン・ブランですが、その歴史は浅く、まだ新しい産地です。最初に植え付けられたのは1970年代で、脚光を浴びるきっかけになったのは1980年代にリリースされた初期のマールボロ産ソーヴィニヨン・ブランでした。誰も無視することができない個性の光るもので、瞬く間に世界にその名声が轟きました。他産地で決して真似できない鮮烈なハーブの香りを放ち、とてもフレッシュで爽快感のあるスタイルがマールボロの特徴です。南島の最北端に位置するマールボロは、長い昼に日差しがありブドウが熟します。そして夜には気温が下がるためブドウの酸味が失われず、さらに優良なヴィンテージの秋は雨が少ないという珍しい条件が揃っています。

フランス原産のブドウ品種が「新世界」へ渡って開花したシンデレラストーリーは、アルゼンチンの「マルベック」を彷彿させます。

マルベック(malbec)とは?アルゼンチンで有名なわけ。

その他の新興産地

オーストラリア

海を渡ったすぐ先にあるニュージーランドが大成功を収めたことで、オーストラリアではそれに追随する動きがありました。ソーヴィニヨン・ブラン単体や、セミヨンとブレンドしてボルドースタイルに仕上げたものが見られるのがオーストラリアの特徴です。暖かい産地で育ったものは酸味が穏やかでアロマは抑制的。ソーヴィニヨン・ブランの栽培に向いた冷涼な地域で造られるものも見られるようになっています。デイリーに楽しめるリーズナブルな銘柄から、高い品質のハイレンジな銘柄まで幅広く造られています。

チリ

コストパフォーマンスに富んだワイン生産国として知られるチリで、最も栽培されているブドウ品種はカベルネ・ソーヴィニヨン(40,205ha)。そして2番目はソーヴィニヨン・ブラン(15,222ha)です。チリにとってソーヴィニヨン・ブランはシャルドネよりも重要です。

現在チリのブドウ栽培は適材適所が進み、ソーヴィニヨン・ブランは涼しい地域を選んで栽培されています。グレープフルーツやトロピカルフルーツのアロマをもつスタイルで、酸味は中程度。爽やかさと適度なボディを兼ね備えるのが特徴です。 

1800年台前半にヨーロッパから持ち込まれてチリ国内に広まりました。しかし広まった品種は実のところソーヴィニヨン・ヴェール(イタリアのフリウラーノと同種でソーヴィニヨン・ブランとは別種)であることが後にわかり、ブランへの植替えが進みました。チリでは同じように広まったメルローも実際にはカルメネールだったことがあり、品種間違いのトピックが度々話題になる国です。

世界的にシャルドネの需要が高まった1980~90年代に全くシャルドネが植えられていなかったチリでは、多く植わっていたソーヴィニヨン・ブランなどの樹を切って、その幹にシャルドネを接ぎ木して急な需要に応えました。

ギリシャ

イタリア同様に土着品種の宝庫であるギリシャにおいて、国際品種のソーヴィニヨン・ブランに割かれている栽培面積はさほどでもありません。香りやフレッシュさを出すために、ギリシャの在来品種ベースのワインにブレンドされることが多いようです。そのような中で北ギリシャ、アミンデオン産のソーヴィニヨン・ブランは、らしさを発しており国際的に注目が高まっています。

カリフォルニア州(アメリカ合衆国)

ソノマ・ヴァレー、ナパ・ヴァレー、セントラル・ヴァレーを中心に栽培されています。これらのエリアはソーヴィニヨン・ブランが爽やかな風味を出すには暑すぎるため、世界のソーヴィニヨン・ブランに比べるとリッチでソフトな味わいが特徴になります。一部の冷涼な地域、とくに霧の影響を受けるサンタ・イネズ・ヴァレーやハッピー・キャニオンでは非常に緊張感のあるワインが造られます。また、貴腐させたソーヴィニヨン・ブランを甘口に仕上げることもあります。

南アフリカ

南アフリカのワインは、歴史的にフランスの影響を受けています。宗教迫害から逃れたユグノー派の人々が1680~90年頃に南アフリカへ移住し、その多くはロワール地方の出身者でした。ソーヴィニヨン・ブランが南アフリカに持ち込まれ、広く栽培されるようになったのはずっと後の18世紀のことですが、ロワール地方の伝統品種であるシュナン・ブランと、ソーヴィニヨン・ブランの2品種が現在生産されている白ブドウの1,2位となっている(2022年データ)ことは、何か運命的なものを感じさせます。

ソーヴィニヨン・ブランは南アフリカでは一時あまり人気のない品種でしたが、現在では人気を取り戻しています。他の生産国とおなじように冷涼な産地を選ぶ品種として確立。草の香りと成熟したフルーツの香りがあり、新鮮な酸味をもつフレッシュなスタイルのワインが造られています。

ソーヴィニヨン・ブランに合う料理

ソーヴィニヨン・ブランは酸味とアロマが大きな特徴です。そこから考える食材の選び方や調理法をご紹介します。

前菜のような軽めの料理に合わせる

酸味が豊かで軽やかなソーヴィニヨン・ブランにはメインになるような料理よりは前菜やサラダといった軽めのメニューが合わせやすいです。果物と葉物野菜を合わせたサラダにフレッシュなオリーブオイルをかけて、野菜とワインの新鮮な風味を楽しんではいかがでしょうか。ペッパーの軽いスパイス感やハーブの爽やかさを足してもよく合います。

魚介類や白身肉を合わせる

ワイン全般的に言えることですが、食材の色とワインの色を合わせると美味しくペアリングできることが多いです。白身魚のカルパッチョや生牡蠣にレモンを絞ったもの(ボルドーでは定番)など。冷ための温度で本領を発揮するソーヴィニヨン・ブランのワインは冷製のメニューが合わせやすいです。ディルやタイムのような爽やかなハーブのアクセントを加えてみることもおすすめです。魚をハムやサラダチキンのような白身の肉で応用するのもよいでしょう。

揚げ物を合わせる

ハーブやグレープフルーツ、ときにはレモンのような風味を感じられるソーヴィニヨン・ブランのワインは揚げ物に合わせるのもおすすめです。味わいを合わせるというよりは、揚げ物にレモンを絞る代わりをワインでやるような感覚です。ソーヴィニヨン・ブランの柑橘の風味とハーブの風味が油をすっきりさせてくれるからです。

おすすめのグラス

カジュアルな銘柄であれば、一般的なワイングラスで気軽に楽しむのが良いと思います。サンセールなどの高級なソーヴィニヨン・ブランをより美味しく飲みたいということであれば、グラス形状で選ぶようにします。

 

ソーヴィニヨン・ブランのワインは香りが豊かですが、複雑さという意味では中程度です。また、酸味が豊かで瑞々しさが特徴です。そのポテンシャルを引き出すにはボウル部分が直線的な、ボルドー型に近いグラスが向いています。

​どんなワインにも対応できる『万能型』のグラスを使うのも一手です。

『すべての”個性”を引出す』 ジャンシス・ロビンソン ワイングラス

美味しく飲む温度

一般的なソーヴィニヨン・ブランのワインはそのフレッシュさを楽しむために、少し冷やしておくのがおすすめです。理想的には6~12℃ぐらいが目途です。飲んでいるうちにボトルの温度が上がってくると、酸味がぼやけて感じられるようになるかもしれません。その際はもう一度冷やしなおすのがおすすめです。温度の好みは個人差がありますので、心地よいと感じるような温度であれば6~12℃でなくてもかまいません。たとえば夏場ならキンキンに冷やして楽しむ、冬場なら室温で、といった具合です。

ソーヴィニヨン・ブランのボトル形状

ソーヴィニヨン・ブランはフランスのロワール地方を発祥とするブドウ品種で、早くにボルドー地方に伝わりました。伝統的にロワールのワインにはブルゴーニュ型の瓶が使われますが、ボルドー産にはボルドー型の瓶が使われます。ボトル形状に注目しながら世界のソーヴィニヨン・ブランを見ていくと面白いことがわかります。

世界的に大成功をおさめたニュージーランドはブルゴーニュやオレゴンからワインを学んだ経緯があります。また南アフリカにはロワール地方からの移民によってワイン文化がもたらされました。そのためこの2カ国のソーヴィニヨン・ブランには、主にブルゴーニュ型(写真右)が使われています。

オーストラリア、カリフォルニアのようにボルドースタイルのワインが造られている生産国のソーヴィニヨン・ブランはボルドー型(写真左)の瓶に詰められるのが主流です。

代表的なソーヴィニヨン・ブランの香り成分

ボルドー地方には世界で最も優れたワイン研究所であるボルドー大学があります。ソーヴィニヨン・ブランはそのボルドーで栽培されていることから、栽培、醸造方法が最も研究の進んだ品種の一つです。その特徴である香り成分に関する研究も行われ、日本人である故・富永敬俊博士が偉大な功績を残されました。いくつかの代表的な物質をご紹介いたします。

メルカプト・ヘキサノール(3MH)

優秀なソーヴィニヨン・ブランを表現するときに、なくてはならないグレープフルーツのような香りの成分です。チオール化合物のひとつで、濃度やほかの芳香成分によってはパッションフルーツなどトロピカルフルーツのように感じられることもあります。ほかのブドウ品種でも見られる成分ですが、含まれる量が微量なためソーヴィニヨン・ブランほどはっきりと感じ取りにくいようです。

メルカプト・ペンタノン

チオール化合物のひとつでカシスの芽の香り。カシスの芽の香りを日本で嗅ぐ機会は少ないですが、フランスでは比較的簡単でソーヴィニヨン・ブランの香り表現に使われます。強い青っぽいアロマ。もともとソーヴィニヨン・ブラン果汁から感じることはできませんが、含まれる前駆体が醗酵の過程で変化して発生します。

メトキシピラジン

青草、青ピーマンのように香り、条件によっては土のような香りになります。ソーヴィニヨン・ブラン、カベルネ・ソーヴィニヨン、カベルネ・フランの香り成分のひとつで果汁中に存在します。ブドウが熟す過程で濃度が下がり、収量制限や、除葉・除房によっても減らすことができます。




参考文献
ヒュー・ジョンソン、ジャンシス・ロビンソン/『世界のワイン図鑑 第7版』/ガイアブックス/2014年
ジャンシス・ロビンソン、ジュリア・ハーディング、ホセ・ヴィアモーズ/『ワイン用葡萄品種大辞典』/共立出版株式会社/2019年
富永 敬俊/『きいろの香り』/フレグランスジャーナル社/2006年
一般社団法人日本ソムリエ協会/『日本ソムリエ協会 教本2022』/一般社団法人日本ソムリエ協会(J.S.A.)/2002年
『Winart』/美術出版社/2021年春 No.103/白ワイン品種の最新ガイド
シュテファン・ラインハルト/『FINEST WINEシリーズ ドイツ』/ガイアブックス/2013年
田中克幸、岩城ゆかり/『オーストリアワイン ガイドブック』/美術出版社/2005年

データ参照
キム・アンダーソン/『Which Winegrape Varieties are Grown Where?』/アデレード大学/2020年/2023年3月22日閲覧
https://www.adelaide.edu.au/press/titles/winegrapes

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