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ワインのキホン

ガメラー必読。ブドウ品種『ガメイ(Gamay)』 の解説

ガメラー必読。ブドウ品種『ガメイ(Gamay)』 の解説

ガメイは非常に長い歴史をもつ赤ワイン用ブドウ品種です。日本ではおなじみのボージョレ・ヌーヴォはガメイから造られています。古くから現代まで様々な誤解を受けながらも、フランスのボージョレ地方を中心に根付く大切な品種を解説します。

ガメイとは

ガメイは主にフランスのブルゴーニュ地方『ボージョレ地区』を中心に栽培される赤ワイン用の黒ブドウ品種です。多産(たくさん房がなる)な品種で、栽培するには剪定によって適格に収量制限することが必要です。いくつかある亜種によっては性質が変わりますが、たいていは粒が詰まった房をつけます。

ガメイの味わい

ガメイのワインは果実味が豊かです。フレッシュでイキイキとした酸味があり、スルスルと喉を滑るような飲み心地です。良い畑で栽培されたガメイを伝統的な方法で醸造することで純粋さにあふれ、上質のすっきりした飲み口になります。赤い果実や時に胡椒の香りがあります。オーク樽で熟成された驚くほどに長命なワインもみられます。

ガメイの起源

ガメイは歴史の長いブドウ品種です。ピノ(※)とグエ・ブランという2品種の自然交配でできたことがわかっています。「グエ・ブラン」は良質のワインを生まず、いまや絶滅危惧となっている古い品種ですが、ピノとの交配によって後世に残る品種をいくつも生み出しました。「シャルドネ」「アリゴテ」「ミュスカデ」などが代表的で、すべて「ガメイ」の兄弟品種です。

※ピノは、現在でも知られる「ピノ・ノワール」「ピノ、グリ」「ピノ・ブラン」など変異型のある品種です。もともとは黒ブドウ(=ノワール)だったという説が一般的。

名前の由来

ガメイの名前がどこからついたのかは諸説ありますが、解明されていません。ブルゴーニュ地方にあるサン・トーバン村の小さな集落(Gamay)の名前に由来しているという説が有力ですが、ガメイ種は14世紀以降に様々な綴りで文献に登場します。正式にGamayと名づけされたのは近年(1896年)になってからで、この集落がその都度名前を変えてきたということがなければ成立しませんし、この集落のある地域にはガメイ種が栽培された記録もありません。そのため最も有力な集落名説にも無理があるとされています。

ガメイの栽培面積

本拠地であるフランスがガメイの栽培面積の大半を占めており、その他の国では少量のみ生産されています。上位6カ国を表で見てみましょう(2016年データ)。ボージョレ・ヌーヴォの需要が低下しているのを主因に、世界の生産面積は減少傾向です。その一方でガメイにハマるファンが増えており、「ガメラー」を自称する人が現れはじめています。※「ガメラー」に関しては後述。

2016 面積(ha)2000-2016
フランス
24,095
-10,442
スイス
1,349
-628
カナダ
272
+9
トルコ
228
+-?
アメリカ合衆国
123
-561
イタリア
64
-88

ガメイの不遇な歴史3つ

ガメイはその長い歴史のなかで、いくつかの誤解が生まれた経緯があります。その内容をご紹介します。

ボージョレはブルゴーニュ地方として扱われるが、実は…

ワインの世界では通常、ボージョレ地区を「ブルゴーニュ地方の最南端の一部」として扱います。その背景には歴史的にボージョレワインの流通をブルゴーニュのワイン商が行ってきたこと、多くのブルゴーニュのワイン生産者がボージョレでもワインを造っていること、の2つがあります。それによりボージョレ地区は便宜的にブルゴーニュ地方とされてきました。ガメイはしばしばブルゴーニュのピノ・ノワール種と比較されて「ピノ・ノワールよりも劣る品種」といった見方をされることがあるのですが、これは実に不運です。ボージョレはブルゴーニュの隣にあるローヌ県に属していて、実際にブルゴーニュ地方に属しているわけではありません。属した歴史すらないのです。

ガメイ禁止令

ガメイが登場する最も古い記録は1395年7月31日のもので、ディジョン(ブルゴーニュの首府)のフィリップ2世が発布した『ガメイ禁止令』です。「ガメイから造られるワインが粗悪であるから伐採せよ」との内容。中世のブルゴーニュではその育てやすさから生産者の間でガメイが人気でした。その勢いはかの高名なピノ種を追い出すほどで、伐採令は16、18世紀にも発令されています。当時は知られていなかったのかもしれませんが、ガメイはボージョレのような花崗岩質の土を好むため、ブルゴーニュにみられる石灰質の土からよいワインはできなかったのです。ブルゴーニュにおける『ガメイ禁止令』はその意味では正しかったのかもしれませんが、ガメイを粗悪品として扱った歴史の一面になっています。

ボージョレ・ヌーヴォ

最近生まれたガメイの誤解は、『ボージョレ・ヌーヴォ』によるものです。ボージョレの新酒は1970~80年代に世界的なヒットを博しました。解禁日にワインを完成させるため、ヌーヴォはガメイを「速醸法」でワインにします。その味わいは新鮮な風味で軽やか。通常の醸造法で造られる本来のガメイはもっと深みがあり、中には長い熟成に向いた偉大なワインもあるほどです。しかしガメイはヌーヴォばかりで注目されるため「薄っぺらな味わい」というイメージを定着させる結果をもたらしました。

ガメイに合う料理

さて、ここからはガメイの美味しい楽しみ方をみていきましょう。

ガメイのワインはチェリーやプラムのようなアロマがあり、タンニンが少なめで酸味があります。赤ワインとしてはパンチがすくなくて優しい味わいになります。大ぶりの肉料理よりは一口サイズの料理がおすすめです。

焼き鳥

串焼き類は一口サイズの肉料理になりますので、ガメイとの相性は全般的に優れています。焼き鳥に大葉のようなハーブ梅肉のような酸味のアクセントを加えることでボージョレワインの果実味と合いやすくなります。豚串を合わせるのもおすすめです。

鱧のおとし

鱧のように淡白で旨味のある食材もガメイに合わせられます。ここでも梅肉を使うことで、ガメイに合わせやすくなります。梅肉の酸味はガメイとの相性がとてもよいため、様々な食材で鱧の代用することも可能です。豚しゃぶや鶏ハムなどがおすすめです。

冷製ローストビーフ

ローストビーフもガメイとのペアリングに効果的です。ワインの温度と合わせてローストビーフは冷製にします。ここでも一口サイズにすることが大切で、大きなポーションにならないように薄くスライスしましょう。

ガメイの名産地はどこ?

ここからはガメイが栽培されている生産地をみていきます。

ブルゴーニュ地方とボージョレ地区

世界生産量の90%以上を占めるフランスでは全ブドウ品種のなかで11番目(2016年データ)に多く栽培されています。例外(ボルドー、コルス島、アルザス)を除けば、フランスのほぼすべてのワイン産地で広く推奨または公認されています。栽培面積の約2/3はブルゴーニュ地方のボージョレ地区を中心としたエリアが占めています。

ブルゴーニュ全域で造られる『ブルゴーニュ・パス・トゥー・グラン』は、ピノ・ノワールを30%以上、ガメイを15%以上のブレンドによって認められています。また、『コトー・ブルギニヨン』の赤は単一ブドウまたはブレンドが認められており、ガメイもその一品種に選ばれています。

ボージョレで造られている赤ワインは大部分がガメイ100%となっており、畑の場所によってランク分けがなされています。

フランス全域

ガメイは北フランスのロワール地方一帯、特にロワール河上流のトゥール(Tours)でも栽培されています。ロワールのように冷涼な土地では春に霜被害を受ける危険をともないますが、カベルネ・ソーヴィニョン等よりも成熟が容易というメリットがあります。トゥーレーヌ・ガメイはこの品種の本来の性質を最もよく表現する産地で、軽くてリーズナブルなワインになります。東部に目を向けるとサヴォワ地方で最も広く栽培される赤品種の一つとなっています。

フランス以外の産地

生産面積2位はスイスで、ピノ・ノワールに次いで2番目に多く栽培されている赤ワイン用品種です。多くの場合ピノ・ノワールとブレンドされます。イタリアの北西部のヴァッレ・ダオスタでも見つけることができます。

新世界へ目を移すとアメリカ合衆国のカリフォルニア州、オレゴン州、ニューヨーク州をはじめとする各州や、カナダのブリティッシュ・コロンビア州やオンタリオ州でも作付けされています。オーストラリアの冷涼産地ヤラ・ヴァレー、ニュージーランド、南アフリカ共和国でも栽培されています。

オーストラリアのガメイ事情

近年、型にはまらない自由なワインを多数生み出すことで注目されているオーストラリアのガメイ事情を見てみます。オーストラリアには「ガレージ醸造」の文化があるためとても発想豊かで、ワインでもビールでも未知の領域へどんどん足を踏み入れていく傾向があります。

そんな風土でガメイは消費者から人気を集めているブドウ品種です。もちろんその中心はボージョレ産。関税の影響で他国のワインは高価ですが、ガメイは比較的安価なため人気があります。オーストラリアの国内でもガメイは栽培されています。ピノ・ノワールほど盛んではありませんが、醸造家の意欲を掻き立てる新しい品種として注目されているようです。栽培している農家はまだ少ないためブドウの値段が高く、ガメイで造ったワインはピノ・ノワールより高価!本家のフランスとは逆のことが起こっているようです。

オーストラリア産のガメイは、一部の高級ワインを生産するワイナリーでないと手の届かない品種です。輸入品のガメイワインは安価に楽しめるのに、自国産が高くついてしまうことに悩む生産者も多いようですが、そのクオリティは素晴らしいものが多いそう。オーストラリアでガメイの栽培が盛んになれば市場が盛り上がってくるかもしれません。

以下は参考のニュージーランド産

『ガメラー』とは?自称する人が増加中!

近年ワイン通の方のなかに不遇なガメイを愛する人々が出てきました。『ガメラー』は、何かのきっかけでガメイのおいしさに気づいてしまった人が、ガメイ好きを自称するときに使う言葉です。ガメイの魅力に引き込まれたきっかけを、いくつかご紹介しましょう。

  1. ガメイは少し粗野なところが親しみやすい。肩こりせず、気軽に会いに行ける感覚。
  2. ボージョレの大御所生産者が造った「ナチュラルワイン」のおいしさが凄かった。
  3. 「チルドレッド(冷やして飲む赤)」がイケる。
  4. クリュ・デュ・ボージョレを飲んで目覚めた。
  5. 40年熟成のボージョレを飲んで雷に打たれた。

最後まで読んでくださったあなたは、もしかしたら「飲まず嫌い」のガメラー候補かもしれません。このコンテンツをきっかけにガメイを再発見いただければ幸いです。




参考文献
ヒュー・ジョンソン、ジャンシス・ロビンソン/『世界のワイン図鑑 第7版』/ガイアブックス/2014年
シルヴァン・ピティオ、ジャン=シャルル・セルヴァン/『地図でみるブルゴーニュ・ワイン』/早川書房/2016年
ジャンシス・ロビンソン、ジュリア・ハーディング、ホセ・ヴィアモーズ/『ワイン用葡萄品種大辞典』/共立出版株式会社/2019年
一般社団法人日本ソムリエ協会/『日本ソムリエ協会 教本2022』/一般社団法人日本ソムリエ協会(J.S.A.)/2002年
ボジョレーワイン委員会/『Carnet Beaujolais (日本語)』/2023年7月14日閲覧

https://beaujolais-wines.jp/Carnet-Beaujolais-JP.pdf

データ参照
キム・アンダーソン/『Which Winegrape Varieties are Grown Where?』/アデレード大学/2020年/2023年7月9日閲覧

https://www.adelaide.edu.au/press/titles/winegrapes

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