貴腐ワインとは
貴腐ワインは、極甘口の『デザートワイン』の一種です。通常はブドウを腐敗させる天敵の菌（ボトリティス・シネレア菌）が、ある特定の条件でブドウの実に悪さをすると、ブドウに『貴腐』と呼ばれる魔法がかかります。
そのためボトリティス・シネレア菌は『貴腐菌』とも呼ばれ、この貴腐ブドウを使って醸造されたワインが『貴腐ワイン』になります。
『貴腐』とは腐敗したかのように見えるブドウの外見からは想像しがたい芳香と風味のワインができることから、このように表現されているものです。
デザートワインの中でも高い人気を誇り、凝縮した上品な甘さと、貴腐特有のふくよかな香りをもつ『世界最高峰の甘口ワイン』の一つです。
貴腐ワインの特徴
貴腐ワインは
・糖度が高く、甘味が濃厚で
・希少性が高く、高価である
ことが特徴にあがります。
その理由は貴腐ブドウのでき方にあります。
貴腐ブドウのできるまで
貴腐ブドウは先ほどお伝えした通り、ボトリティス・シネレア菌による「貴腐」によって糖度が高くなります。
ブドウに付着した菌は、ブドウ内部の水分を守っている果皮の蝋質を溶かしはじめます。同時に多くの日照と乾燥した気候が続くことで、やがて実の水分は蒸発しはじめて果汁の糖分が濃縮していきます。
ちなみにボトリティス・シネレア菌のついたブドウの実がすべて貴腐ブドウになるわけではありません。この菌はブドウに「灰色カビ病」という病気を引き起こす菌で、被害を受けると果実はもちろん、花や葉なども灰褐色のカビで覆われてしまいます。
この病気はブドウだけではなく植物全般に起きるメジャーな病気の一つで、畑の作物に大きな被害をもたらす危険をもつものです。
しかし、リースリングやセミヨンといった白ワイン用のブドウ品種が成熟した頃に菌が活動すると、先ほど述べた貴腐ブドウとなる第一歩になります。
貴腐ブドウを生育する条件
貴腐ブドウを収穫するには、ブドウが完熟しても収穫せずに畑で注意深く見守る必要があります。ボトリティス・シネリア菌が付着して、その後
- 朝の時間帯に霧が発生し、菌が生育できる温度や湿度が保たれている
- 日中は晴天となり、乾燥することでブドウ内部の水分が蒸発できるようになっている
- １か月以上の間、この条件が続く
という、奇跡のような気候条件が揃うことが必要です。
１か月以上も同じ気候条件が続くことは稀です。条件が合わないと単なる「腐敗」になってしまうため、貴腐ブドウを生育することは大変困難です。
そのため、貴腐ワインの生産量は不安定でわずかになることも多く、希少性が高いのです。
貴腐ワインの味は？
ワインの外見
澄んだ黄金色をしており、とても美しい輝きを放ちます。熟成を経るとその色調が濃くなり、数十年以上前の古いものは深い琥珀色です。
香り
グラスから少し離れていても蜂蜜や熟した果物、ドライフルーツ、トフィー、スパイスなどの複雑で魅力的なアロマが感じられます。熟成が進んだ貴腐ワインは香りの複雑さが一層豊かになり、飲む前から楽しむことができます。
味わい
濃厚なのは、甘味だけではなくフレーバーも非常に濃厚で複雑です。強い甘味、酸味に隠れていますが貴腐の特徴である「苦味」が下支えになっています。例えると蜂蜜、アプリコット、リンゴの蜜、ピーチ、ナッツ、バニラ、スパイスなどの豊かなフレーバーが挙げられます。
舌触り
貴腐ワインは高い糖度によって、非常に滑らかでクリーミーな舌触りです。口に含むと、重厚感がありながらもシルクのような滑らかさが広がり、長く続く夢のような余韻を楽しむことができます。
貴腐ワインの起源・発祥
ハンガリーの『トカイ』が最初に貴腐ワインを造った地として知られています。ドイツのライン川で「遅摘み法」が発見される1世紀前、フランスのソーテルヌの2世紀前にさかのぼります。1650年の逸話の中に記載が見られるほか、1550年代の記述も見つかっています。
貴腐ワインとアイスワインの違い
希少なデザートワインのひとつに『アイスワイン』があります。
アイスワインは真冬に凍結したブドウを収穫して造ります。そうすることで凍った果実の水分が残り、凍らなかった糖分の濃いジュースだけを絞ることができます。これをワインにしたものがアイスワインです。
一房のブドウから果汁が少量しか採れず、収穫時に規定の気温まで下がった気象条件が必要なため、貴腐ワイン同様に希少で高価なワインとされています。
気候条件の厳しさ、希少性、極甘口のデザートワインという点で、貴腐ワインとアイスワインには共通部分が多いですが、このようにブドウのできる工程に違いがあります。
貴腐ワインは濃厚な甘みで複雑さがあるのに対して、アイスワインは酸味のあるスッキリとした甘さになるのが特徴です。
貴腐ワインの醸造方法
ボルドーのソーテルヌを例に紹介すると、貴腐菌のついたブドウ粒の状態が成功のカギを握っています。そのため畑での摘果（間引き）が非常に重要で、期間にして3か月続くこともあります（年によって2週間という場合も）。
長い時間をかけてゆっくり圧搾して、徐々に圧力をかけて3,4回に分けてジュースを搾ります。最後の圧搾果汁が一番アロマ豊かで糖分濃度が高くなります。先の果汁とのブレンド比率や醗酵や熟成に使う樽の比率をどうするかなどは人の腕にかかります。
世界三大貴腐ワインとは
貴腐ワインには世界三大貴腐ワインいわれるものがあります。ここではワインを産地について詳しくご紹介していきます。
ソーテルヌ（フランス／ボルドー）
フランスのボルドー市の南東、ガロンヌ川左岸と支流のシロン川に挟まれた地域。
ソーテルヌ特有の朝霧が畑を覆い、昼は日照で乾燥する稀な気候条件から「貴腐」が起こり さらに人間の技が加わって奇跡のような極上の甘ロワインが生まれます。
生産者 シャトー・ギロー（フランス）
トカイ（ハンガリー）
トカイ地方はハンガリーの首都ブダペストの北東230kmに位置し、諸説ある貴腐ワイン発祥の地ともいわれています。
二つの川が合流するトカイ地方は秋の昼夜の寒暖差によって濃い霧が発生し、その湿気によってブドウに貴腐菌がつき世界三大貴腐ワインの一つであるトカイワインが生まれるのです。
生産者 パトリシウス（ハンガリー）
トロッケンベーレンアウスレーゼ（ドイツ）
トロッケンベーレンアウスレーゼは産地名ではなく、格付けのランク名称となります。
ドイツでは糖度によって6段階に分類する独特のワイン格付けシステムがあり、トロッケンベーレンアウスレーゼは最高級のワインにのみ許された名称となります。
ハチミツのような、うっとりする香りとしっかりとした酸味と甘味のバランスが抜群です。
貴腐ワインの選び方
記念日や誕生日など特別なイベントには、「シャトー・ディケム」や「トカイ アスー 5 プットニョス」など高級銘柄を選ぶとその価値を楽しむことができます。
初心者の方は、手ごろな価格帯のセカンドワインを試してみてはいかがでしょうか。
ハーフサイズもあります。
おすすめ貴腐ワイン
シャトー・ディケム
世界三大貴腐ワインの産地 ソーテルヌといえば、シャトー・ディケムが最高峰の代表格
シャトー・ギロー
貴腐ワインの代表的な銘柄の一つです。
ちょっとお高い…という方に、同じシャトーが造ったお手頃で楽しめるセカンドワインもございます。
シャトー・リューセック
こちらも同じく代表的な銘柄です。
ちょっとお高い…という方に、同じシャトーが造ったお手頃で楽しめるセカンドワインもございます。
シャトー・ラ・コサード
貴腐ワイン入門編に最適なお手頃なボルドーワイン
※2018は貴腐ブドウ100%ですが、ヴィンテージによって貴腐ではないブドウが少量含まれる場合もあります。
シャトー・ラ・コサード
フランス以外の貴腐ワインです。
貴腐ワインの美味しい飲み方
飲むタイミング
デザートワインは別名で「食後酒」とも呼ばれています。食後に甘いものがほしくなるように、冷やしたデザートワインをそのまま飲んでもいいですし、スイーツと合わせて飲むのもおすすめです。
冷やして飲む
よく冷やしておきましょう。冷やすことで濃厚な甘みがスッキリと感じられるようになります。
貴腐ワインに合うペアリング
食後スイーツ系
糖度の高い貴腐ワインは食事と合わせるよりもいわゆるデザートワインとして楽しむのが一般的です。バニラアイスやフルーツケーキなどのスイーツ系がおすすめです。
コクの強いブルーチーズやフォアグラ
コクの強いブルーチーズやシェーブルチーズやフォアグラ料理など濃厚な味わいの料理とも相性がとても良いです。
いかがでしたか。希少で甘口の貴腐ワインの魅力を知っていただけたのではないでしょうか。少し高価ですが、自分へのご褒美として一度味わってみるのもよいかもしれません。
参考
ヒュー・ジョンソン、ジャンシス・ロビンソン／『世界のワイン図鑑 第8版』／ガイアブックス／2021年
一般社団法人日本ソムリエ協会／『日本ソムリエ協会 教本2018』／一般社団法人日本ソムリエ協会（J.S.A.）／2018年
ジェイムズ・ローサ―／『ボルドー』／ガイアブックス／2011年
