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レポート

【参加レポート】イングリッシュ・スパークリング『ハッティングレイ・ヴァレー』 オンラインワイナリーツアー

【参加レポート】イングリッシュ・スパークリング『ハッティングレイ・ヴァレー』 オンラインワイナリーツアー

8月26日、土曜日の夜、ワイナリーと中継をつなぎ、LIVEで楽しめるオンラインワイナリーツアーに参加しました。今回のワイナリーはイギリスの「ハッティングレイ・ヴァレー」。近年、世界的にも”イングリッシュ・スパークリングワイン”が注目されていることもあり、「どんなワイナリーなのだろう?」とワクワク気分で参加。新しい発見に多く出合えました!

南西イングランドの自然に誘われてツアー開始!

ワイナリーと中継がつながった瞬間、画面に映ったのは緑豊かなブドウ畑と真っ青な空、そして白い雲!
「実は、昨日までイギリスは大雨でした。今日は晴天の下、皆さんとお会いすることができて、ほっとしています」と、当日のナビゲーター役クリス・アンガー氏(セールス&マーケティング)が笑顔を見せた。

ワイナリーはロンドンから車で約時間半ほどのイングランド南西部ハンプシャーに位置する。ここはイギリスでも風光明媚な土地として知られ、美しいイングリッシュ・ガーデンも数多い。「今、気温は25度、今日は過ごしやすく心地よい天気です」とクリス氏。背後に見えるブドウ畑も美しく、風も涼しげで、猛暑の日本にいることを一瞬忘れさせてくれる。

イギリスの気候は冷涼な気候で知られるが、今年は例年にない猛暑で大変だったと、クリス氏は話す。なんと、37.5℃まで気温が上がったというのだ。イギリス国内では40℃まで上がったところも! 頭を悩ませる地球温暖化だが、クリス氏によれば、「実は、皮肉にもこの地球温暖化が、北緯の高いイギリスにおいては、幸運に作用しているのです」という。

冷涼な地から生まれる上質のスパークリングワイン

元来、イギリスはワイン造りには冷涼すぎる土地だった。だが、近年、気温が上がったことでブドウが完熟するようになり、フランス・シャンパーニュ地方と同じ白亜質土壌というアドバンテージも加わって、上質のスパークリングワインに向いたブドウが収穫できるようになったのだ。

クリス氏は畑を歩きながら地面から手のひらに乗るサイズの石を拾い、画面に向けて差し出した。

「これはフリント(火打石)です。この地面の下に白亜質土壌が広がっているのです。白亜質土壌は、大雨の時にはスポンジのような役割を果たして水を大量に吸い込み、ブドウの樹を守ります。そして、雨が降らない時にはブドウの根に水を供給する役割を果たしてくれるのです。いわば、自然の灌漑ですね」。

クリス氏の説明はとてもわかりやすく、まるで自分が畑の中にいるような感覚を覚える。ワイン&フードジャーナリストという職業柄、ワイン産地へは数多く足を運んだが、その時、畑に立った感覚と同じものを覚えたのだ。

クリス氏の説明は続く。畑を歩きながら、シャルドネの房を見せてくれた。小粒だが、淡い緑色が美しく、健康に育っているのがわかる。

「この房を見てください。粒と粒の間が少し開いているでしょう? これは”風の通り道”なのです。風がシャルドネの房を乾燥させてくれるので、病気になりません」。

世界的に注目される”イングリッシュ・スパークリングワイン”

実は、このイギリス南西部の気候的なアドバンテージが知られてからは、この地に着目するシャンパーニュメゾンは多かった。「ルイ・ロデレール」、「ポメリー」といった名門が次々と参入、シャンパーニュ造りのメソッドを生かし、上質な”イングリッシュ・スパークリングワイン”を誕生させていったのだ。 

一方で、「ここはイギリス。自分たちの力だけで”英国らしい”スパークリングワインを造る」というワイナリーが続々開業した。「ハッティングレイ・ヴァレー」もそのひとつで、「自分たちにしか造れない最高のスパークリングワインを造る」という志を掲げて、2008年に創業したのだ。

初ヴィンテージは2008年で、リリースは2013年。熟成に5年もかけていることから、丁寧な造りが読み取れる。その努力の甲斐あって、ブリティッシュ・エアウェイズの創立100周年記念の時には、公式ワインに採用され、プライベートラベルを造るなど、まだ若いワイナリーながらも、高い評価を得るブランドとして国内外でも注目されている。

クリス氏の畑のガイドは続く。ブドウの樹齢は14年で、まだ幹は十分に太くはないが、上質なブドウを生産してくれること、不要な葉を落としてブドウに日光が行きわたるようにしていることなどをていねいに説明してくれる。

画面を見ていると、クリス氏の背後にはずっとブドウの樹が映っているのだが、手入れが行き届いていて、それだけでも大切に育てられていることが伝わってくる。ちなみに、自社畑は10ヘクタールほどだが、契約農家に恵まれ、必要なブドウは潤沢に手に入るという。現在栽培している品種はシャルドネ、ピノ・ノワール、ムニエ(ピノ・ムニエ)、ピノ・グリ、そしてピノ・ノワール・プレコスなど。

ブドウ品種の呼び方にも感じられる英国気質

ここで、クリス氏より興味深い話を聞いた。現在、「ピノ・ムニエ」は、シャンパーニュ地方では「ムニエ」と表記されているが、イギリスでは”あえて”「ピノ・ムニエ」と呼んでいるというのだ。
実は、「ムニエ」に関しては、世界中のセパージュの遺伝研究を行うモンペリエの農学研究所(INRA )によって、かつてピノ・ノワールの遺伝子を持っていたピノ・ムニエは、遺伝的に進化した結果、現在では完全にピノ・ノワールと別物になっていることが確認され、ピノ・ムニエに”ピノ”をつけないという決定をした。シャンパーニュ委員会では、INRA の要望を尊重して、現在では「ムニエ」と呼称している。日本の多くの媒体においても、表記は「ムニエ」だ。とはいえ、これは法的に決まっていることではないこともあるせいか、クリス氏は「私たちは、これからもピノ・ムニエと呼びます。イギリス人ですから」と笑う。“フランスには迎合しない”というイギリス的プライドが見え隠れして、実に興味深い。

また、興味を引かれたのが「ピノ・ノワール・プレコス」という品種。これは、ドイツ品種のフリューブルグンダーのことで、冷涼な地域で育つブドウなのだという。ピノ・ノワールの亜種とも言われ、早い時期から収穫できるのが特徴。「ハッティングレイ・ヴァレー」ではロゼに使用されているが、早摘みのブドウは爽やかさを与えてくれるという。

加えて、畑の地形の形も興味深いものだった。同ワイナリーの畑は、標高180メートルから190メートルの丘陵に位置し、海も近い。その影響で霧が立つが、丘陵地であるため、風が霧を飛ばして、”常に風が吹いている”状況に恵まれるのだという。また、強風は森や林がブロックしてくれるので、ほどよい風に恵まれているという。

「この風のお陰で、ブドウたちが健康に育つのです」と、クリス氏。

ワイナリー取材のたびに感じることだが、ひと通り畑を案内してもらうと、その土地の個性や自然環境、生産者の哲学などが自然に頭に入ってきて、味わいまでも理解しやすくなる。説明がわかりやすかったことも手伝って、「ハッティングレイ・ヴァレー」というワイナリーが、ぐっと身近になったように感じられた。

工夫を凝らして表現する”自分たちの味”

さて、次はワイナリーに戻って、本格的な乾杯だ。オンラインツアーが始まる前に「自由に試飲してください」という主催者側からのアナウンスがあったので、きっと多くの参加者は、すでに試飲を始めていたはず。私もその一人だったが、やはりきちんと乾杯をすると気分が違う。生産者に対し、心からの敬意を表したくなるのだ。

この日、試飲したのは「ハッティングレイ・ヴァレー クラシック・レゼルヴ ブリュット」と「ハッティングレイ・ヴァレー ブリュット ロゼ」の2種。共通しているのは、上品さと爽やかさ。「ハッティングレイ・ヴァレー クラシック・レゼルヴ ブリュット」は、白い花とレモンの香りが心地よく、「ハッティングレイ・ヴァレー ブリュット ロゼ」はサクランボの香りが繊細で、とてもアロマティック。面白いと感じたのがやはり”酸味の在り方”で、シャンパーニュとはまたひと味違う。シャープさがありながらもどこか優しさを感じさせ、”イングリッシュ・スパークリングワイン”であることを主張しているように感じられた。シャンパーニュと比べて遜色なく、素直に「美味しい」と思えた。

また、味わいの中に感じたのがふくよかさ。通常、これはリザーヴワインによって表現されることが多いが、実は、設立14年の若さのワイナリーでは、十分な量のリザーヴワインを用意するにはまだ時間がかかるという。だから、現在ではソレラシステム(つぎ足し)をアイディアとして、過去のヴィンテージのワインを少しずつストックしているという。加えて、味わいの中には樽の風味も感じられたが、樽を上手くつかうことでも、味わいにふくよかさを表現できるという。

ここで、参加者から”サスティナブルな取り組み”についての質問が入った。その答えも明確で、ワイナリーではソーラーシステムで電力を今日供したり、水も再浄化して使用したりといった取り組みに細かく取り組んでいる。ブドウは自然の恵み。長く自然とともに歩んでいきたいという思いからだ。 

そういえば、ワイナリーのアイコンは蝶々だが、これは、自然豊かな土地にしか生息しない品種なのだという。生物は”吉兆”とも言われるが、この蝶々も、この地が祝福された地であることの証なのだろう。

「イギリスは美味しい」! アフタヌーンティーとも好相性

さて、ここで画面に登場したのは、ローカルマーケットで購入してきたというスモークサーモン。強めの燻し具合がロゼに合いそうだ。カーリー・バセットさん(デジタルマーケティングマネージャー)によれば、によれば、このあたりのローカルマーケットには”生産者の個性あふれた美味しいもの”が揃っているという。

「イギリス料理がまずいと言われたのは、もう昔の話。今はとても美味しいものが揃っています。だから、一度ワイナリーにいらしてくださいね!」と満面の笑顔を見せる。

イギリスといえば、”フィッシュ&チップス”や”アフタヌーンティー”が有名だが、もちろん、これらともよく合うという。

実は、カーリーさんによれば、最近ではアフタヌーンティーの最後にイングリッシュ・スパークリングワインを開けることがトレンドになっているという。以前はシャンパーニュが定番だったというが、イングリッシュ・スパークリングワインの名声が高まってからは、多くの”泡ファン”がアフタヌーンティーと一緒にイングリッシュ・スパークリングワインを楽しんでいるという。以前はシャンパーニュが選ばれることが多かったが、”英国の泡”のよさが広く知られるようになってからは、イングリッシュ・スパークリングとともにアフタヌーンティーを楽しむ人が増えたという。

「エリザベス女王も、今ではイングリッシュ・スパークリングワインを飲んでいらっしゃいます」と、カーリーさんは誇らしげな笑顔を見せる。

オンラインワイナリーツアーはワイン初心者にこそお勧め!

ここまで、かかった時間は1時間ちょっと。とても楽しく、あっという間に時間が経ってしまった。クリス氏とカーリーさんの説明が詳細で、専門用語に関しては、モトックスのブランドマネージャーである河野佳代さんが説明してくださるので、とてもわかりやすかった。オンラインツアーの参加者は、エキスパートから初心者までと幅広いに違いしない。私の周りには、「ワインは好きだけど、難しいことはよくわからない」というワインファンがいるが、そういった人々も、こういったオンラインツアーに参加したら、ワインがぐっと身近になるに違いないと感じた。

「ハッティングレイ・ヴァレー」は、まだ若いながらも、大きな可能性を秘めている。それはきっと、”イングリッシュ・スパークリングワイン”そのものの可能性なのだと思う。これからますます見逃せないジャンルになることは、”マスト”であるに違いない。なにより、イギリスに行きたくなった。あの風光明媚な場所で、アフタヌーンティーと「ハッティングレイ・ヴァレー クラシック・レゼルヴ ブリュット」を楽しんでみたい。

洋梨や青リンゴ、白いブーケの香り。瓶内熟成由来のヌガーやハチミツ、ブリオッシュのニュアンスも。飲み口もクリーミー。

  • Hattingley Valley Brut Rose
    イギリス
    イギリス
    • ロゼ

    • 2018

    Hattingley Valley

    ハッティングレイ・ヴァレー

    Hattingley Valley Brut Rose

    ハッティングレイ・ヴァレー ブリュット ロゼ

    750ml, 6,900 yen

    こちらの商品は現在取り扱いがございません

淡い桜色の色合いが美しい。サクランボなど赤い果実とローズペタルの薫り。フルーティーで軽やかな飲み口で、余韻も繊細。

※今回のワイナリーツアーは、
「ワイン1本+おつまみつきチケット」\5,995
「ワイン2本+おつまみつきチケット」\12,815
(ともに税・送料込み)の2種。

私は”ワイン2本”をセレクト。おつまみは枝付きドラスレーズンで、これがイングリッシュ・スパーリングワインと好相性。送料込みで、とてもお得な内容と感じました。

Writer

安齋喜美子 kimiko Anzai

ワイン&フード ジャーナリスト。ワイン専門誌やファッション誌、ウエブなど多くの媒体でワインや料理、お取り寄せ、旅などの記事を執筆。国内外の醸造家インタビューや世界のワイナリーの訪問も多数。著書に『葡萄酒物語』(小学館)、『ワイン迷子のための家飲みガイド』(集英社)。シャンパーニュ騎士団シュヴァリエ。

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