企画の趣旨
「魚には白ワイン、肉には赤ワイン」
これがワイン業界の王道の組み合わせです。これは全くその通りで、基本にして頂いて問題ありません。
では魚に合う赤ワイン、肉に合う白ワインはないのか?というと条件さえ揃えば、合わせることが出来ます。
海外では地元でとれた魚と地元でとれた赤ワインを合わせる文化があります。
海風の影響を受けて育ったブドウから造ったワインと、それに合わせやすくするための郷土料理があります。
しかし、それを日本で再現するのはなかなか難しく、専門店に行かないと再現するのは難しいでしょう。
日本の食材で、比較的手に入れやすいワインで、相性をよくすることは出来ないだろうか?
日常の食事の中で魚と赤ワインを合わせるポイントを分かりやすくしたい、という目線で、 赤ワインと魚を合わせるコツを考えてみました。
なぜ魚と赤ワインは相性が悪いのか?
相性をよくするためには、なぜ相性が悪くなってしまうのかを知ることも大切です。
魚のネガティブな要素としては特有の生臭さです。
合わせるワインによっては生臭さを増幅させます。
魚と赤ワインの相性が悪い主な理由は以下の通りです。
生臭さの増幅
●魚は水揚げされてから時間が経つにつれトリメチルアミンが生成され生臭さの原因となる。
●赤ワインに含まれる鉄分(二価鉄イオン)が魚の過酸化脂質と反応すると魚に含まれる脂質の酸化を促進し生臭さの原因となる。
味のバランスの崩れ
●赤ワインの渋みや果実味、樽の風味などの強い味わいが魚の味わいを消してしまう。
合わせるためには、生臭さが出ない組み合わせ、マスキング効果、味わいのバランスが大切です。
生臭い魚と赤ワインを一緒には飲みたくありませんよね。
つまり「生臭さ」を消すもしくは増幅させない赤ワインを選べば、相性が良くなってきます。
魚もワインも美味しく楽しむためには、どのような魚、どのようなワインを選べばよいのでしょう?
それぞれの観点から、相性を引き寄せるためのポイントを解説します。
魚を赤ワインに合わせる4つのコツ
料理とワイン、それぞれが美味しいだけでは、必ずしも良いペアリングにはなりません。
大切なのは、互いの方向性を寄せていくことです。バラバラの方向を向いていては、合うはずのものもかみ合いません。
特に魚と赤ワインは、「基本的には相性が悪い」という前提に立ったうえで、どう歩み寄らせるかがポイントになります。
そこでまずは、魚料理の側からワインに寄せていくコツをご紹介します。
1.鉄分の多い魚を選ぶ
鉄分(血合い)を持つ魚であれば、生臭さの増幅を最小限に留めることが出来ます。
またこの鉄分が両者の共通項になることで相乗効果が見込めます。具体的には、マグロやカツオです。
2.メイラード反応を与える
メイラード反応とはつまり焼き色。焼く、揚げるなどの加熱調理をすることで料理に香ばしさが生まれます。
ほのかな樽感とも相性が良くなり、咀嚼を増やすことでタンニンを中和してくれます。
3.しょうゆや味噌を使う
発酵食品同士なので相性が良くなります。醗酵由来の旨みが塩味と酸味で引き締められます。
果実感はしょうゆの旨みと相性がよく、寄り添い合うような感覚が口の中に広がります。しょうゆや砂糖の濃度が上がればよりボディのあるワインとも合わせやすくなります。
4.トマトソースを使う
トマトソースの酸味とワインの酸味の相性は良いので、トマトソースには軽めの赤ワインがよく合います。
特にピノ・ノワール種やガメイ種、低価格帯のサンジョヴェーゼ種やグルナッシュ種は合わせやすいです。
洋食であれば、オリーヴオイルを使う、ソースに赤ワインを使うなどすることで相性を寄せることが出来ます。
特にオリーヴオイルは魚を覆うことで酸化を遅らせ、生臭さを抑える効果があります。
これを組み合わせることでより相性をよくすることが出来ます。
魚に合わせやすい赤ワインの特徴は?
赤ワインは何でも合うかというとそうではありません。
特に赤ワインに含まれるフェノール成分とタンニンは特に味わいが強く、赤身肉くらいしっかりとしていないと バランスをとることが難しくなってきます。
つまり濃い赤ワインは魚に合わせるのが難しくなります。
1.冷涼な産地のワインを選ぶ
温暖な地域のワインはアルコール度数が高くなりフェノール含有量も増えます。
ワイン自体の味わいがより強くなり、魚の味わいを消してしまいます。凝縮感からくる甘さは非常に強い味わいバランスを保つことが非常に困難となります。
2.渋みの弱いワインを選ぶ
カベルネ・ソーヴィニヨンやシラーなどのタンニンの強いワインでは、タンニンが勝ってしまい魚の味わいを消してしまいます。
肉に比べ身質が柔らかい魚には渋みが穏やかなワインの方が合わせやすくなります。
3.酸化防止剤が少ないワインを選ぶ
魚介類や魚卵の臭みの原因はアミン系物質でありアルカリ性となります。
アルカリ性を酸性物質で中和できれば生臭みを抑えることが出来ます。
より生臭みの出やすい生牡蠣や光物(鯖、コハダなど)に柑橘系果実(レモン、スダチ)を絞ったり、酢に漬けたりして酸を足すことで、鉄分が不飽和脂肪酸と反応しにくくなり、臭みが軽減されます。
酸化防止剤が少ないワインは、酸化を抑制する酸化防止剤にあまり邪魔されずワインの酸でアルカリ性を中和してくれます。
赤ワインと魚料理のペアリング検証
今回の検証では、300本以上のワインの中から事前に8本を厳選し、それぞれ魚料理との相性を確認しました。
その中でも、特に相性の良さが際立っていた2本の赤ワインとのペアリングをご紹介します。
検証に使用した料理は、「刺身」「煮付け」「西京焼き」「トマトソース」の4種類。
それぞれの料理に対するワインのマッチ度を探っていきます。
おすすめワイン① ヴァイン・イン・フレイム ピノ・ノワール
今回の検証で最も魚料理に合わせやすいと感じた赤ワインです。「刺身」「煮付け」「西京焼き」「トマトソース」のすべての料理とバランス良くマッチしました。
香りは、ラズベリーやチェリーに加え、黒コショウやバニラのニュアンスも感じられます。
酸はほどよく心地よく、ブラックチェリーのような果実味に、やわらかく丸みのあるタンニンが溶け込んだ、エレガントな味わいです。
マグロの刺身
【ペアリングのポイント】
「鉄分の多い魚」+「しょうゆ」。
刺身には、しょうゆと赤ワインを2:1の割合で混ぜた“ワインしょうゆ”がおすすめです。この“ワインしょうゆ”をつけて、そのまま同じワインを合わせると、ぐっと相性が良くなります。
わさびは赤ワインの渋み(タンニン)を和らげる効果があるため、一緒に使うとさらにバランスが取れます。ワインの酸味は魚の脂とよく調和し、驚くほどマッチします。
マグロ以外にも、カツオや脂ののったブリ、ハマチなどとも好相性です。合わせるワインとしては、ピノ・ノワール種の軽やかで酸のある赤ワインがおすすめです。
キンキの煮付け
【ペアリングのポイント】
「しょうゆ」+「砂糖」+「メイラード反応」。
煮付けなど、しょうゆと砂糖で甘辛く味付けした魚料理には、果実味が凝縮され、ほんのりと甘さを感じる赤ワインがよく合います。
ポイントはタレの甘さ。甘さがしっかりしているほど、ニューワールド産のピノ・ノワールなど、ふくよかでまろやかな赤ワインがマッチしやすくなります。
キンキの煮付け以外にも、金目鯛やのどぐろといった脂ののった魚との相性も抜群です。
合わせるワインは、ピノ・ノワール種やサンジョヴェーゼ種がおすすめです。
おすすめワイン② キアンティ
イタリアを代表する赤ワイン「キアンティ」は、サンジョヴェーゼ種を主体に造られています。豊かな果実味とフレッシュな酸味、ほどよい渋み、そして滑らかな口当たりが魅力の一本です。
このワインは、「煮付け」「西京焼き」「トマトソース」との相性が抜群でした。
特に西京焼きとのペアリングは想像以上のマッチ。トマトソースにはキアンティ、と言ってもいいほど、鉄板の組み合わせでした。
めばちマグロの西京味噌焼き
【ペアリングのポイント】
「味噌」+「メイラード反応」+「日本酒」
味噌とワインが好相性なのは、どちらも発酵食品で共通点が多いから。さらに、味噌に日本酒を加えることで、ワインとの相性が一段と良くなります。
味噌の塩味とワインの酸味がバランスよく調和し、酸が突出せず、余韻には複雑な香りの重なりと広がりが感じられます。
マグロ以外にも、タラや鮭などの魚との相性も◎。合わせるワインは、ピノ・ノワール種やサンジョヴェーゼ種がおすすめです。
タラのトマトソースのムニエル
【ペアリングのポイント】
「トマトソース」+「メイラード反応」
煮込んだトマトソースのまろやかな甘みと赤ワインの果実味が絶妙にマッチします。さらに、ムニエルの焼き目に生まれる香ばしさ(メイラード反応)が、ワインのタンニンをやわらげ、全体のバランスを整えてくれます。
フレッシュトマトを使うと酸味が立ちすぎて、ワインの酸とぶつかる場合もあるので注意が必要です。
タラのほかにも、カレイや太刀魚など淡白な白身魚とよく合います。合わせるワインは、軽めのサンジョヴェーゼ種やシラーズ種がおすすめです。
最後に
今回の検証では、「魚と赤ワインの相性」についての考察から始まり、実際のペアリングまでを通して、多くの学びを得ることができました。
「魚と赤ワインは合わない」というイメージを持たれがちですが、合わせ方のポイントを押さえれば、驚くほど相性の良い組み合わせになることがわかりました。
今後もさまざまなテーマで検証を行い、その結果をレポートとしてお届けしていきたいと思います。
この記事が、皆さまのワイン選びやペアリングの参考になれば幸いです。