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ワインのキホン

地中海の中心、ワインが美味しい『シチリア島』の解説

地中海の中心、ワインが美味しい『シチリア島』の解説

シチーリアは、イタリア最大の面積を誇る島の州です。ワインの生産量は国内第4位。島の個性が存分に発揮された味わいの豊かさは大変魅力的で、理想的な気候と歴史がストーリーを感じさせてくれます。紆余曲折を経ながらもこの島のワインは時代に合わせて進化を続けています。

シチリア島の場所

シチーリアは地中海のちょうど「真ん中」に位置するイタリアの島です。イタリア最南端の島と周辺の島々からなる『州』となっており、その大きさは四国より大きく九州よりは小さいくらいのサイズです。州都は港町の『パレルモ』。古くから地中海の覇権を争うために戦略的な要所、また交易の拠点にもなった場所で、古代はギリシャから、イスラム、アフリカ、スペイン、フランスなどの統治によって様々な文化の影響を受けてきました。現在でもギリシャやアラブの文化が色濃く残り、「自治州」として治められています。

空港は州都の「パレルモ」と東部の「カターニア」にあります。どちらの空港も島のワイン産地として重要なエリアに近いので観光に訪れるときにワインのことを知っておくと楽しめるかもしれません。

島の歴史、ワイン

紀元前8世紀頃、イタリア南部~シチリア島はギリシャの植民地でした。この頃にギリシャからブドウや醸造技術が持ち込まれてワイン造りが始まりました。これはフランスにワイン造りが伝わった前6世紀よりも約200年早い時代です。そのような背景から南イタリアのブドウには「ギリシャ起源」と伝わる品種が今でも数多く存在しています。様々な勢力による統治の変化を受け入れながらも、ブドウ畑は脈々と受け継がれて現在に至っています。

シチーリアは気候が穏やかでブドウにとって理想的な自然条件が揃っています。質の高いブドウが大量に生産できることや、南イタリアが経済的に遅れていたことから、戦後の時代は量産したワインを北イタリアやフランスの銘醸地にバルクごと「桶売り」していた時代がありました。ワインの色を濃くしたり、アルコール度数を高めたりするためブレンドしてテーブルワインとして販売されたり、時には高級な銘柄に混ぜたりしたこともあった(当時は合法だった)のです。4,5社の有名ブランドはフルーティで親しみやすい銘柄を造って国内外で知名度を上げました。転機が訪れたのは1990年代。中規模のワイナリーがシャルドネ、カベルネ・ソーヴィニヨンといった国際品種を植えてヒットし、海外人気でシチリアワインのブームが起きました。2000年代になると他産地との差別化が図られて地品種を重視するようになりました。時代を見据えて量より質を重視するようになったことも、人気の背景となっています。

西側のワイン・ブドウ品種

島の西側「アグリジェント」「トラパニ」「パレルモ」では国際品種を含めた様々な品種が栽培されていて果実味豊かなわかりやすい魅力をもつワインがたくさん造られています。1990年代の世界的な国際品種ブームにのってシャルドネシラー、カベルネ・ソーヴィニヨン、メルローなどから造られた銘柄が成功を収めましたが、その後の地産地消、原点回帰の機運からカタラット、インツォリア、グリッロ、ネロ・ダーヴォラのような地品種が再評価されています。

南イタリアは北に比べると経済的に遅れをとってきましたが、北イタリアの資本を使った規模の大きなワイナリーがシチーリアでリーズナブルながら質の高いワインを造って成功した例も見られます。

グレカニコ

(grecanico dorato)

レモンのような酸味があり、温暖なシチーリアでも生き生きとした白ワインを造り出します。ヴェネト州に起源のある古い品種「ガルガネーガ」と同一品種で、ギリシャに起源があると伝わってきましたが、現代のギリシャ品種とはDNAのつながりがないことがわかっています。さらなる研究の結果が待たれています。

カタラット

(catarratto bianco)

正式にはカタラット・ビアンコ(=白)。柑橘やハーブのアロマがあり、フレッシュさと余韻に塩っぽいミネラルを感じることができます。時にはナッツのフレーバー、充分に熟すと「ヴィオニエ」のように香ることも。海岸沿いのレストランで食べられる素朴な魚料理と抜群の相性です。前出のグレカニコ(ガルガネーガ)とは親子関係にあります。中~晩熟。

インツォリア

(inzolia)

16世紀頃からトスカーナでも「アンソニカ」の名前で栽培されてきた白ブドウです。島で栽培されているグリッロ、フラッパート、ネレッロ・マスカレーゼと近縁であることから起源はシチーリアと言われています。大きくて果汁に富んだ実をつけることからワイン造りに効率がよく、単一品種のワインから「マルサラ」にも使われます。香りは高めで柑橘やハーブのように香り、最高のワインにはナッツのような特徴が表れます。

グリッロ

(Grillo)

「カタラット」×「ジビッボ(マスカット・オブ・アレキサンドリア)」が自然交配してできたシチーリア起源の品種です。フルボディの白ワインができ、ハーブとフローラルなアロマが感じられます。単一品種の白ワインや「マルサラ」にも使われます。名前の由来は畑に落ちたブドウの実を求めてグリッロ(=コオロギ)が集まることからこの名が付いたという説や、島の言葉で「種」を意味するグリッリが転じたという説などがあります。

マルサラ酒

(Marsala)

本島の最西端「マルサラ」で造られる、伝統的な酒精強化ワインです。シチリア人ではなくネルソン提督の海軍を支えるために移住してきた英国人のジョン・ウッドハウスが1773年に造ったのが最初です。指定されたブドウ品種で造ったワインに、同じブドウで造った蒸留酒を加えて1~10年間(銘柄によって年数が変わる)熟成して造られます。大英帝国ではポート、マデイラと並んで評価されており、イタリア統一の英雄ガリバルディも愛しました。

20世紀後半に粗悪品が出回ったため、このワインは台所の隅に追いやられる料理用酒になってしまいましたが本来は偉大なワインで、少量ですが優良な銘柄を見つけることができます。また、喜ばしいことに近年になって品質の回復傾向がみられます。シェリー酒と同じように『ソレラ』と呼ばれる熟成方法を使うことも許されています。

東側のワイン・ブドウ品種

島の東部で最も注目されているのはカターニアにある活火山「エトナ」の山麓にある畑です。ネレッロ・マスカレーゼを主体にした高級赤ワインは、温暖なシチーリアのワインとは思えないほど色の薄いエレガントさがあります。世界中で人気の黒ブドウ「ネロ・ダーヴォラ」や、歯切れのよい白ワインを生み出す「カリッカンテ」といったブドウ品種が活躍しています。

再発見された『エトナ』

第二次大戦のあとに、職を求めて南イタリアを離れる人々が少なくない時代がありました。島の北東部にある活火山のエトナの斜面にあるブドウ畑には樹だけが打ち捨てられ、それでも樹齢を重ね続けた60~100年の古木が残されていました。それを何人かのワインメーカーが発見し、このエリアは1990年頃から再興によって火が付きました。標高300~1200mの火山石が風化してできた土からエレガンスとミネラルにあふれ、非常にみずみずしく繊細で長期熟成能力をもつワインが造られたのです。

エトナにインスパイアされた生産者は数多く、島内外からエトナに進出して注目されている産地です。現在では様々な標高、樹齢100年を超える古木、土壌の違いなどによって区画が細分化されています。

世界のブドウ畑では通常、日当たりのよい南向きの斜面にブドウ畑がつくられますがエトナでは北向きの斜面に有名ワイナリーの畑があります。シチーリアでは日照が強すぎるという理由と、北側は収穫期に雨が少ないことから晩熟のブドウを秋深い時期まで熟させることができるのがその理由です。

ネレッロ・マスカレーゼ

(nerello mascalese)

厳格なタンニンをもつ黒ブドウ品種です。色はそれほど濃くありません。かつては色の濃いワインを生み出すべく強く抽出したワインが造られていましたが、現在は本来のブドウの姿を映しとったようなエレガンスをまとったワインが造られるようになりました。エトナ山の300~1200mの畑、その中でも高標高の畑で最もその特徴が際立つ偉大なワインが造られています。

「サンジョヴェーゼ」と、カラーブリア州のマイナーな地品種「マントニコ・ビアンコ」の自然交配によってできたと考えられています。カラーブリアでは同じ交配で「ガリオッポ」が誕生していることから、この2品種は姉妹品種であるようです。

ネレッロは「黒」、マスカレーゼは、起源となった海岸のマスカリ村に由来するという説があります。

ネレッロ・カップッチョ

(nerello cappuccio)

エトナの品種で、果房を覆う果粉をコートに見立ててカップッチョ(=フード)と呼ばれるようになったとされています。ワインは中程度の色合いで黒いフルーツの風味があります。単独ではあまりはっきりとしない味ですが、ネレッロ・マスカレーゼにブレンドされることでワインをソフトにします。カラーブリア州でも栽培が見られます。

カリッカンテ

(carricante)

非常に酸が強く個性的な品種です。長期熟成によってリースリングのようなニュアンスをもつようになります。エトナの東斜面で主に造られており、オレンジ、オレンジの花、グレープフルーツや白フルーツ、アニスのタネのようなアロマ。爽やかな酸味としなやかなミネラルがあります。

ネロ・ダーヴォラ

(nero d'avola)

島全体で栽培されて、世界中にシチーリアの豊かな味わいを届ける役割を果たしている島を代表する黒ブドウです。赤果実やプラムのアロマをもつ、力強い赤ワインになります。アフリカから地中海を越えてくる熱風「シロッコ」が吹き荒れる南東にあるシラク―サのパキーノ周辺のものが特に優れていますが、シラク―サにはネロ・ダーヴォラの名前の由来となったアーヴォラ村があり(ネロ=黒、ダーヴォラ=アーヴォラの)、最もよいワインが生まれるのは必然だったのかもしれません。

品種の別名は「カラブレーゼ」。17世紀のシチーリアの植物学者の記載のなかに「Calavrisi」の名前があるのが最初の記録です。この言葉はシチーリアの方言で「カラーブリアから」の意味であることから品種の起源はカラーブリア州にあると考えられています。

フラッパート

(frappato)

デリケートな薄い果皮をもち、味わいも上品です。フレッシュでジューシー、イチゴの味わいがあり多くの場合フルーティでフローラルなワインになります。18世紀に島の南東のラグーザで初めての記載が見られることからシチーリアが起源であるとされています。

島で唯一のDOCG『チェラスオーロ・ディ・ヴィットーリア』

(cerasuolo di vittoria)

ラグーザの西側で造られている力強い味わいのネロ・ダーヴォラに、優美なフラッパートがブレンドされると軽やかさをもった見事なブレンドワインになります。特定の古くからある地域のものには「Classico」の表記が認められています。2005年にDOCGに認定されました。

諸島のワインと、『ジビッボ』

シチーリアでは2種類のモスカート系品種(マスカット)を使ったワインが見られます。どちらも通常は強くて甘い味わいです。

ひとつめは『モスカート・ビアンコ』(=ミュスカ・ブラン)で、本島のシラク―サで「モスカート・ディ・ノート」「モスカート・ディ・シラクーザ」の銘柄で造られています。

もう一つは『ジビッボ』(=マスカット・オブ・アレキサンドリア)を使った離島のワインです。火山土壌の真っ黒な島で「黒い真珠」の異名をもつパンテッレリア島には『パンテッレリア』、エオリア諸島のリパリ島とサリーナ島では『マルヴァジア・デッレ・リーパリ』という甘口が造られます。シチーリアは諸島のワインや甘口ワインでも私たちを楽しませてくれます。




参考
宮嶋 勲/『イタリアワイン 2021年版』/ワイン王国/2021年
一般社団法人日本ソムリエ協会/『日本ソムリエ協会 教本2018』/一般社団法人日本ソムリエ協会(J.S.A.)/2018年
ヒュー・ジョンソン、ジャンシス・ロビンソン/『世界のワイン図鑑 第7版』/ガイアブックス/2014年
本間チョースケ/『本間チョースケ超厳選 飲むべきイタリアワイン103本』/NHK出版/2022年
川頭義之/『イタリアワイン最強ガイド』/株式会社文芸春秋/2005年

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