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ワインのキホン

『トスカーナ州』のワイン解説。キアンティと、クラッシコの違い。

『トスカーナ州』のワイン解説。キアンティと、クラッシコの違い。

イタリアワインを常にリードするトスカーナ州のワイン銘柄を解説。その歴史や特徴をみてみましょう。

トスカーナ州の特徴

トスカーナ地方は州都のフィレンツェを筆頭にイタリア文化の重要な中心地です。ダンテ、ガリレオ・ガリレイ、レオナルド・ダ・ヴィンチ、マキャベリなど枚挙にいとまがないほどの歴史的人物を輩出しました。誰もが知るフィレンツェ、シエナ、ピサなどの街は観光客の心を捉えてやみません。別の側面に目を向けると農業と畜産が盛んです。平野部が少なく多くが丘陵地であることから、トスカーナ地方では大規模な単一栽培ではなくひとつの農園でブドウやオリーブ、小麦といった様々な作物を育てる独自の混合耕作が発達してきました。肉をよく食べる文化で生ハム、サラミ、ラルド(ラルド・ディ・コロンナータ)のような加工品や、特産のオリーブオイルをかけていただくキアニーナ牛のビステッカ・アッラ・フィオレンティーナのような肉料理が多数あります。牛の胃袋をトマトで煮込んだトリッパ・アッラ・フィオレンティーナなど、美食で有名な土地柄でもあります。

紀元前に高い文明を誇って中部イタリアを支配していた「エトルリア」が現在の「トスカーナ」の語源です。トスカーナがいかに古くから文化の栄えてきたのかがそこからも見ることができます。12世紀にシエナとフィレンツェの2つの街が台頭し、14、5世紀にはメディチ家が治めたトスカーナ大公国となってルネッサンスの中心になりました。トスカーナ人は垢抜けた性格で、おしゃれとセンスの良さが光ります。それはワインにも表れており、トスカーナのワインは常にイタリアワインの最先端を走り続けています。

代表的なブドウ品種

トスカーナワインの特徴は土着品種である『サンジョヴェーゼ』を主体とした赤ワインが多いことです。サンジョヴェーゼは、酸味とタンニンが強く、果実味やスパイスの香りが特徴的です。詳しい説明はこちらのコンテンツをぜひご覧ください。

トスカーナワインの重要銘柄

イタリアのワインは『DOCG』を格付けの頂点としたワイン法によって守られています。トスカーナ地方には11のDOCGと、40のDOC、合計51の認定銘柄があります(2021年4月時点)。これは合計59のピエモンテ州に次ぐイタリア2位の数です。その中でもとくに重要なDOCG銘柄と、その他の銘柄をいくつかご紹介します。

キアンティDOCG

キアンティの指定地域でサンジョヴェーゼを70%以上使用した赤ワインです。キアンティ・クラッシコ(DOCG)は、その中でも特定の伝統的なエリアで造られた銘柄のみが表示を許されます。サンジョヴェーゼを80%以上使用し、通常品より7か月長い熟成期間が条件になります。さらに長熟(24か月+α)を経たものはキアンティ・クラッシコ・リゼルヴァ(DOCG)で、最上級のキアンティ・クラッシコ・グラン・セレッツィオーネ(DOCG)(30か月+α)は自社のブドウ園から収穫したブドウのみを用い、90%以上のサンジョヴェーゼを使用。他品種をブレンドする場合はトスカーナの伝統品種のみに限定されます。

世界で最初に原産地保護の原形ができた

ワインの原産地呼称を法整備したのは1756年ポルトガルの『ドウロ』が初とされています。しかしトスカーナ公国の大公コジモ3世はそれより前の1716年にワイン産地に境界を定めており、これが原産地保護の例となった最初の出来事でした。このとき『キアンティ』をはじめカルミニャーノ、ポミーノ、ヴァル・ダルノ・ディ・ソプラのエリアが線引きされており、偽物ができないように保護されました。

キアンティと、キアンティ・クラッシコはなぜ違うのか?

現在の『キアンティ』は広大なエリアです。キアンティは国内外から人気が高く、商業的な理由から1932年に周辺のピストイア、ピサ、アレッツォ、プラートに及ぶ広大な場所にまで地域が拡大されたことが背景にあります。1716年にコジモ3世が定めた当時のキアンティはフィレンツェとシエナ間にある、現在『キアンティ・クラッシコ』と呼ばれているエリアとほぼ一致しています。従来から高い質のワインを造ってきた「元祖キアンティ」の生産者達はエリア拡大のあと『クラッシコ』を名乗って自らを区別するようになりました。1967年にキアンティがDOCGに認定された際には「歴史的な地区にはクラッシコを付け加える」という規定が盛り込まれたのですが、最終的にはキアンティ・クラッシコ自体が独立したDOCGとして認めらることになりました(1984年)。このようにしてキアンティ・クラッシコは独自の進化を続けていったのです。

ブルネッロ・ディ・モンタルチーノDOCG

モンタルチーノ地区で造られる赤ワインです。モンタルチーノの丘は四方をブドウ畑で囲まれており、サンジョヴェーゼの変異であるブルネッロ種を100%使用して造られます。4年以上熟成させた高級品で、力強いタンニンと重厚な味わい。5年以上熟成させたブルネッロ・ディ・モンタルチーノ・リゼルヴァは最上級品になります。もともとは軽い甘口白ワインの産地で、高級赤ワインの歴史は比較的新しい19世紀末頃からです。しかし現在ではイタリア国内でも「贈答品はブルネッロ」と言われるほど良いイメージを獲得しています。

  • Brunello di Montalcino Salvioni
    イタリア
    イタリア
    • 2018

    Azienda Agricola La Cerbaiola

    アジィエンダ・アグリコーラ・ラ・チェルバイオーラ

    Brunello di Montalcino Salvioni

    ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ サルヴィオーニ

    750ml, 21,500 yen

    こちらの商品は現在取り扱いがございません

ヴィーノ・ノービレ・ディ・モンテプルチアーノDOCG

モンテプルチアーノ地区で造られる赤ワインです。ブルネッロ(サンジョヴェーゼ・グロッソ)はこの地域ではプルニョーロ・ジェンティーレと呼ばれており、この品種を70%以上使用し、2年以上熟成させます(プルニョーロ=プルーンのような、ジェンティーレ=ジェントル=やさしい味わい)。力強さに加えて上品さを兼ね備えるフルボディになります。

ブルネッロと比較すれば国際的な知名度は低めに甘んじていますが歴史が長い点ではヴィーノ・ノービレ(優雅で高貴なワイン)の方が圧倒的に古く、中世以来トスカーナのワイン通が好んできました。17世紀の詩人フランチェスコ・レーディが「ワインの王」と讃えたことで知られるようになりました。

カルミニャーノDOCG

こちらも中世以来の歴史を誇る銘柄です。カルミニャーノ地区で造られる赤ワインでサンジョヴェーゼ50%以上にカベルネ種10~20%と、推奨される品種をブレンドします。フランスの品種であるカベルネ種(カベルネ・ソーヴィニヨン、カベルネ・フラン)を用いることはトスカーナの伝統銘柄には珍しいですが、これらは18世紀からUva Francesca(=フランスのブドウ)と呼ばれて栽培されていました。一般的にはキアンティに比べて柔らかな味わいでフルーティな香りと滑らかな飲み口が特徴ですが、最近ではフルボディの銘柄も見られます。

スーパータスカン

1970年代に起きた潮流「イタリアワイン・ルネッサンス」は、トスカーナに規定にとらわれない自由で美味しいワインを造るというな発想をもたらしました。イタリアワインの近代化につながったこの流れを牽引したのはキアンティ・クラッシコ地区の生産者で、高級なスーパータスカン(スーパートスカーナ)と呼ばれる赤ワインがもてはやされて国際的に大人気になりました。ティレニア海沿岸ボルゲリ地区のスーパータスカンは、主にフランスのボルドー系品種を用いて複数品種をブレンド、もしくはメルローやカベルネ・フランの単一といったスタイルが主流。本家ボルドーを凌駕する品質で評判となりました。規定上は当時の低い格付けvino da tavola(現在のvinoに相当)だったため、「スーパー・ヴィノ・ダ・ターヴォラ」の異名もありました。格付けにとらわれず良質なワインを造ることはトスカーナ人のワイン造りのセンスの良さを物語る出来事でした。

ヴィン・サント

収穫したブドウを日陰で風にあて『陰干し』したブドウで造ります。甘口ワインとして有名な伝統的ワインで『カラテッリ』という小樽で醗酵させ、長期間の酸化熟成を経るためとても複雑な味わいになります。キアンティ、キアンティ・クラッシコ、モンテプルチアーノの3銘柄で造られています。

『赤ワイン』に白ブドウをブレンドする文化

トスカーナ地方の赤ワインには、白ブドウのブレンドが許されている銘柄があります。サンジョヴェーゼ主体のワインに柔らかさを出したり、ワインに足りない要素を補ったりするために伝統的に『補助品種』の使用が認められてきました。その補助品種の中に白ブドウも含まれていたことが今にも継承されています。

キアンティ(10%以下)、カルミニャーノ(10%まで)、ヴェルナッチャ・ディ・サン・ジミニャーノ(10%まで)、ヴィーノ・ノービレ・ディ・モンテプルチアーノ(10%まで)

2006年に完全禁止となる以前はキアンティ・クラッシコでも白ブドウの補助使用が認められていました。

トスカーナの原点回帰

補助品種には例えば香り高さや複雑さなどを高める目的でカナイオーロ、色味の調整でコロリーノといった品種を加えるといった具合で行われてきました。近年はスーパータスカンの影響から補助品種にボルドー系のカベルネ・ソーヴィニョンやメルローを使うのが流行していましたが、現在非トスカーナ品種に頼らない造りに回帰する傾向が高まってきます。




参考文献
宮嶋 勲/『イタリアワイン 2021年版』/ワイン王国/2021年
一般社団法人日本ソムリエ協会/『日本ソムリエ協会 教本2018』/一般社団法人日本ソムリエ協会(J.S.A.)/2018年
ヒュー・ジョンソン、ジャンシス・ロビンソン/『世界のワイン図鑑 第7版』/ガイアブックス/2014年
本間チョースケ/『本間チョースケ超厳選 飲むべきイタリアワイン103本』/NHK出版/2022年

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