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ワインのキホン

緑のスペイン『ガリシア州』のワイン解説

緑のスペイン『ガリシア州』のワイン解説

ワイン好きは知っておきたいスペイン北部『ガリシア』のワイン解説です。スペインとしては珍しい豊富な雨と緑豊かな風景のなかで、ワインも同様にスペインには珍しい生き生きとした酸味をもった白ワインと、地品種を使った赤ワインが造られています。

ガリシアの場所・州の特徴

スペインの最北西部にあり、『サンティアゴ・デ・コンポステーラ』を州都にもつ自治州です。ガリシアはスペインで最も緑の多い州で、北側と西側が海、南はポルトガルとの国境です。スペインで歴史的に長く続いたイスラム統治の影響は南部ほど強くなく、それよりも紀元前のケルト文化の影響で祭礼時にはバグパイプが響き、10~12世紀の中世には独自のキリスト教美術が発達してロマネスク芸術の宝庫になったという文化背景をもちます。

サンティアゴ・デ・コンポステーラでは9世紀にサンティアゴ(聖ヤコブ)の遺骸が発見されたことから寺院が建てられエルサレム、バチカンと並ぶ巡礼地になりました。そのためガリシアは宗教的に重要な州です。その影響はワインの歴史にもおよんでいて、12世紀頃には巡礼路が交差するフランスの西南地方(シュッド・ウェスト)をワイン産地として発展させました。巡礼によってこのエリアに修道院が増えブドウ畑を拡大させたのです。

かつてのガリシアはスペインで最も貧しい地域でした。土地のやせた畑を耕しながら漁で生計をたてる人々をたびたび飢餓が襲ったといいます。そういった背景からラテンアメリカへ移住したスペイン人にはガリシアをはじめ北スペインの出身者が多いとされています。

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現在では産業が発達し、ファッションがお好きな方であればブランドの『ZARA』、サッカーがお好きな方であれば『セルタ(・デ・ビーゴ)『ポデル(デポルティーボ・デ・ラ・コルーニャ)の名前を耳にしたことがあるかもしれませんが、これはガリシアの企業・チームです。車メーカーの『シトロエン(仏)』や、スポーツメーカーの『アンブロ(英)』の工場もガリシアにあります。

ワインの特徴

スペイン北部の沿岸に近い地方は『緑のスペイン(=エスパーニャ・ベルデ)』と呼ばれ、国内で雨量が多く緑が豊かなエリアです。内陸部や南部には見られない活気のある酸味をもった白ワインが名物になっており、特産の海産物にぴったり。ガリシアはその特徴が最も表れる州のひとつです。スペインで随一の白ワインと、地品種を使った個性的な赤ワインが造られます。もう一つ、ガリシアの特徴として覚えておきたいことは小規模な生産者が多いこと。ワイナリーあたりの生産量が少ないと輸出が難しくなるのですがなんのその。質の良さから海外でも需要が高まって日本でも手に入りやすくなりました。

ワインの味わい

グレープフルーツやミネラルの風味が感じられる、新鮮味にあふれた白ワインがガリシアの典型的な特徴です。代表的なブドウ品種の『アルバリーニョ』を単一使用した銘柄が見つけやすいですが、他品種とブレンドしたりオーク樽を使用して長期熟成したりした銘柄も見られます。

ガリシアのワインに合う食材・料理

ガリシアの白ワインは、ぜひ魚介類に合わせてみましょう。サンティアゴ・デ・コンポステーラを訪れる巡礼者はホタテを身に着け、巡礼路の道しるべにもなってます。海産物は郷土料理の食材としても愛されていて、マテ貝、ムール貝、牡蠣、エビやタコや海藻類などが楽しまれています。魚介類の料理なら全般的に合わせやすいです。

茹タコの『プルポ・ア・フェイラ』(Pulpo a feira)

ジャガイモとともに赤トウガラシとオリーブオイルをかけて食べます。市に出る屋台料理の定番です。

スープの『カルド・ガジェゴ』(Caldo Gallego)

具材にキャベツやジャガイモが入ったスープです。

ガリシアは牧畜も盛んで、牛の頭数はスペイン随一。肉を使った料理や有名なチーズもありますので赤ワインに合わせるときはぜひ参考にしましょう。

パイの『エンパナーダ』(Empanada)

ひき肉や野菜、チーズなどを入れて焼いた手持ちサイズのパイです。

チーズ『テティージャ』(Tetilla)

牛乳を使った個性的な形のチーズです。アルスア・ウジョア(Arzua Ulloa)やスモークしたアウマド・サン・シモン(Ahumado San Simon)などの牛乳チーズもガリシアのDOPチーズに認定されています。

産地別おすすめワイン

リアス・バイシャス地区

Rias Baixas

ガリシアで最も重要なワイン産地です。

地理用語の『リアス式海岸』の由来はスペイン語で入り江を意味するリア(Ria)です。
リアス(=入り江)バイシャス(=下部、南部)には200軒ほどのワイナリーがあり、協同組合を除くほとんどが小規模生産です。年間降水量は1600mm(参考:東京都1528.8mm)とスペインとしては多いのが特徴的です。

南側のミ―ニョ川の向こう側がポルトガルのミ―ニョ地方(ヴィーニョ・ヴェルデ=緑のワインの産地)です。ブドウ樹の仕立て方が独特で、近年は機械の使いやすい『垣根仕立』も増加していますが『パラス仕立』が主流になっています。パラス仕立は頭より高い位置に水平のワイヤーを格子状に巡らせる方法。間隔を広くとった樹々は地面から細い幹をワイヤーに伸ばし、そこから枝を広げます。海の影響で高まる湿度に風通しで対応できるメリットがあります。維持には手間がかかりますが、貴重な地面をキャベツ栽培などに活用することができ、自家用のワインを造る程度ならこれでも問題なかったそうです。

リアス・バイシャスの転機

1980年代に共同組合を中心に最新の醸造機器や技術を取り入れたことから、今日に見られる青リンゴやレモンのような柑橘を思わせるフルーティさ、白い花などのフローラルさをもったフレッシュな白ワインが造られるようになりました。これを転機に一躍スペインの高級白ワインになりました。

リベイロ

Ribeiro

中世には修道院を中心に造られたワインがヨーロッパ各地の王室へ献上され、イングランドへ輸出していたほどの歴史があります。フィロキセラ(ブドウの害虫)禍後に南米への移民が増えてブドウ畑が荒廃した時期がありましたが、近年トレイシャドゥーラ種などの地元品種が復活を遂げています。白ワインが85%を占めており、コストパフォーマンスに富んだ銘柄がみつかる産地です。

リベイラ・サクラ

Ribeira Sacra

地名は『聖なる川岸』という意味でガリシアでは最も内陸に位置しています。ミ―ニョ川とシル川沿いの深い渓谷に想像を絶するほど急斜面があり、200~300mの高さにまで段々畑が点在する秘境です。ドイツのモーゼルよりも険しい自然環境で、18あった修道院を中心にしたブドウ栽培の歴史があります。メンシアの赤とゴデーリョの白がメインです。

モンテレイ

Monterrei

ガリシアの最南部で、ポルトガルと国境を接する山間部。地名は「王の山」を意味しています。タメガ川の流域に広がる渓谷部に畑がありガリシアの中で最も小さな産地。ゴデーリョ、メンシアが主要品種です。

バルデオラス

Valdeorras

ローマ植民地時代に金が採掘された、地名の意味は「黄金の谷」。ガリシアで最も内陸に位置するワイン産地です。シル川などの河川の渓谷部分にある斜面に畑があり、地元品種が大半。外来品種は認定されていません。

主要なブドウ品種の解説

アルバリーニョ(白)

Albarino

州内の主要ワイン産地『リアス・バイシャス』で栽培ブドウのうち約96%を占めるほどの代表的な白ブドウ品種です。雨の多いガリシアは湿度が高いことから絶えずブドウの病気「べと病」に悩まされますが、アルバリーニョはその抵抗力が大きいことが特徴です。フルーティさとフローラルさを併せもちボディと酸味があります。海の香りを漂わせるためシーフードとの相性は特筆もの。スペイン北西部で最も古いブドウ品種の一つとされていて、脈々と栽培が行われてきました。

トレイシャドゥーラ(白)

Treixadura

州内の『リベイロ』の主要品種で、リアスバイシャスにも見られます。金色がかった麦わら色の、リンゴ、梨、桃のような繊細なアロマのワインができます。酸味はおだやか。国境の向こう側で、現在でも育てられているポルトガル北部のミーニョ地方から伝わったと推察されています。

ロウレイロ(白)

Loureiro

ポルトガル北部のミーニョ地方が由来の品種です。ポルトガル語で「月桂樹」を意味し、アロマはローレルの葉や花、オレンジ、アカシアの花、桃、青リンゴのような香りと味わいがあります。

ゴデーリョ(白)

Godello

ガリシアのシル川流域に起源があると考えられている品種です。絶滅に瀕していましたが復活プロジェクトによって生産が増えました。ミネラル感に富んだ品種で樽による醗酵や熟成にマッチします。ガリシア近隣の州で育てられている白ブドウ『ベルデホ』とは姉妹品種。

ソウソン(黒)

Souson

ガリシアでは「ソウソン」ですが、起源はミーニョ地方(ポルトガル)にあり、正式名称はVinhaoです。スペイン国内ではほぼガリシアのみで栽培されています。高い酸味とチェリーや森の果実のフレーバーのある個性的な味わいのワインができます。果皮に多くの色素をもつことから深い色合いになるのも特徴です。

メンシア(黒)

Mencia

ガリシアの州境の向こう側、カスティーリャ・イ・レオンのビエルソが起源と考えられています。ポルトガルのダン地方にも見られるのですが、恐らくサンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼者が帰り道にダンに持ち込んだのだといわれています。香り高くフルーティなワインができますが、栽培地によっては濃厚で凝縮されたスタイルになります。

関連コラム

参考
大滝恭子、長峰好美、山本博/『スペイン・ワイン』/2015年
スペイン大使館経済商務部 発行冊子/『スペインのワイン』/2006年
ヒュー・ジョンソン、ジャンシス・ロビンソン/『世界のワイン図鑑 第8版』/ガイアブックス/2021年
ジャンシス・ロビンソン、ジュリア・ハーディング、ホセ・ヴィアモーズ/『ワイン用葡萄品種大辞典』/共立出版株式会社/2019年
一般社団法人日本ソムリエ協会/『日本ソムリエ協会 教本2023』/一般社団法人日本ソムリエ協会(J.S.A.)/2023年

wikipedia/『エスパーニャ・ベルデ』/2024.3.8閲覧
https://ja.wikipedia.org/wiki/エスパーニャ・ベルデ

『スペインの聖地へ フランスから歩いてみた』/毎日新聞/2018年/2024.3.12閲覧
https://mainichi.jp/articles/20180526/mog/00m/070/005000c

『東京の平年値による気候の特徴』/港区/2024.3.8閲覧
https://mainichi.jp/articles/20180526/mog/00m/070/005000c

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