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ワインのキホン

『リベラ・デル・ドゥエロ』とカスティーリャ・イ・レオン州のワイン解説

『リベラ・デル・ドゥエロ』とカスティーリャ・イ・レオン州のワイン解説

『リベラ・デル・ドゥエロ』はベガ・シシリアとペスケラの成功によって一躍スペインワインのリーダー的存在になったワイン産地です。カスティーリャ・イ・レオン州全体の歴史背景と、各産地の情報とともに解説します。

カスティーリャ・イ・レオン州とは

スペイン北中部にある州のひとつです。州都は定められていませんが、バリャドリッドに州政府と議会が置かれています。中世の城塞都市が多く、古城や大聖堂ルネサンス期の建築物が数多く点在しています。15世紀に毛織物取引などで栄えたセゴビアには『白雪姫』のモデルになった城(アルカサル)が残されています。

カスティーリャ・イ・レオンの歴史

カスティーリャ王国レオン王国がひとつになって成立した歴史があります。カスティーリャはもともとレオン王国の一部でしたが、勢力をつけて逆にレオン王国を吸収。首都をバリャドリッドにおいたため、その周辺はスペインの中でも文化が栄えていました。キリスト教の3大巡礼地である『サンティアゴ・デ・コンポステーラ』への巡礼路とスペインを縦断する「銀の道」が交差する場所にレオンの町があり、ここも交通の要所として栄えました。

カスティーリャ(=城)の名前はスペイン北部にある地域を指す歴史的な名称です。ゲルマン系による支配が終わった711年以降、スペインの大部分はイスラム教徒が支配するようになりしました。スペイン南部から勢力を増していったため、キリスト教徒はだんだん北部に追いやられていきました。9世紀以降、アラブ勢力から国土を回復する運動は「レコンキスタ」と呼ばれ、主力となったのは「カスティーリャ王国」「アラゴン王国」の連合軍です。約8世紀に及ぶ長い戦いの後に勝利を収め、スペイン王国が誕生しました。ここカスティーリャはその戦いの最前線でした。レコンキスタによって回復したカスティーリャ南側地域は、現在のカスティーリャ・ラ・マンチャ地方になっています。

ワイン産地

近年冷涼感のある赤ワインが造られて注目を集める北部の『ビエルソ』を除けば、ブドウ畑の大半は標高の高い内陸部のドゥエロ川渓谷に広がっています。強い大陸性気候で冬は凍てつく寒さのうえに強風が吹きます。産地ごとに様々なワインが造られますが『リベラ・デル・ドゥエロ』の赤ワインは別格。『トロ』や『シガレス』も良質な赤ワインが生まれまる産地です。白ワインで有名なのが『ルエダ』で、スペインの2大白ワイン産地のひとつに数えられます。

ワイン産地ごとの解説

カスティーリャ・イ・レオン州には、スペインワイン法に認められているワイン産地がいくつかあります。9つある『DO』に加えて『VP』が4つ、『VC』が3あります(2024年4月現在)。DOを順に解説していきます。

リベラ・デル・ドゥエロ

Ribera del Duero

スペインの至宝『ベガ・シシリア』を生んだ産地です。穀物と砂糖大根(甜菜)の畑が広がっていたリベラ・デル・ドゥエロの風景はこの銘柄の登場によってワインの有名産地に姿を変えました。

ブドウ畑の特徴

リベラ・デル・ドゥエロはカスティーリャ・イ・レオンを代表するワインの産地で、スペインのワイン全体にとっても重要な場所です。スペインの中央台地(メセタ)につながるエリアに広がり、標高は700~850m。ヨーロッパのなかでも高台に入ります。ブドウ畑は川に近い平地~川の侵食によってできた谷の急斜面にあります。高原らしく光と空気がカラッと乾燥していて明るさが感じられる環境です。

一躍注目を浴びる

優れた赤ワインとロゼワインが造られるリベラ・デル・ドゥエロですが、最初に良いワインが生まれることを立証したのが『ベガ・シシリア』です。1929年のバルセロナ万博で金賞に輝やいたスペインワインの大看板。ワイナリー(ボデガ)に植え付けが行われた1860年代の同時期は、リオハにボルドーのワイン関係者が流入(別コラムを参照)してリオハが発展していった時代でした。その陰になっていたリベラ・デル・ドゥエロですがベガ・シシリアの登場により一躍有名になりました。良年にのみ造られる『ベガ・シシリア・ウニコ』は長い樽・瓶熟成を経たのち10年後に出荷される逸品。土着のテンプラニーリョ(ティント・フィノまたはティンタ・デル・パイス)にボルドー品種がブレンドされて都会的な魅力が加わったスタイルです。

急速な拡大

1990年代に爆発的な人気を呼んだリベラ・デル・ドゥエロですが、1980年代の前半にアレハンドロ・フェルナンデスの『ペスケラ』が国際的な成功を収めたことでその運命が決定的になりました。スペインのワイン法でDOリベラ・デル・ドゥエロ(原産地呼称)が施行された1982年にはワイナリー(ボデガ)は24軒でしたが2018年には300軒に増え、風景は一変しました。3haにも満たない小さな栽培農家が8000軒ほどもあり、リオハと同様にブドウを買い付ける習慣があることから畑をもたないワイナリーが多いのは注目すべき特徴です。

とくに質の高いブドウが3つの村『ロア・デ・ドゥエロ』『ラ・オラ』『ペドロサ・デ・ドゥエロ』の三角地帯で産出されています。

ワインの味

リベラ・デル・ドゥエロは高原のため夜は涼しく昼間は暑い寒暖差があります(例えば昼30℃、同じ日の夜は4℃)。涼しい夜のおかげでワインには生き生きとした酸味が生まれます。色、果実味、風味とも濃厚凝縮感のある赤ワインとなり、100kmしか離れていないリオハの赤ワインとはまた違ったスタイルになるのが興味深いところです。

ブドウ品種とスタイル

栽培されている品種の約85%がテンプラニーリョ(ティント・フィノまたはティンタ・デル・パイス)です。赤ワインには最低75%の使用が決められています。他にはガルナッチャ・ティンタやボルドーの品種などが使われますが、ブレンドするかどうかは生産者に委ねられています。近年はテンプラニーリョの可能性を見出した生産者が単一で造ることを選択することが増えています。白ワインの生産は認められていませんが、スパークリングワインの『カヴァ』は生産が認められています。

トロ

Toro

標高600~840mの高台にあり、寒暖差のあるエリアです。リベラ・デル・ドゥエロよりは標高がやや下がるため夏の乾燥が激しくなります。そのためアルコール度数の高い濃厚な赤ワインができますが、濃厚ながらも洗練したスタイルのワインが登場しています。また、砂っぽい土壌と厳しい環境によってフィロキセラ(ブドウ害虫)が生息できないため6割は自根。樹齢の50~100年以上の素晴らしい樹が多数残ることができました。主要品種の『ティンタ・デ・トロ』は、何世紀もかけてこの地に順応したテンプラニーリョのこと。その過程に独自の特徴をもつようになりました。

ルエダ

Rueda

バリャドリッドの南側。平坦な穀物畑が果てしなく広がり「スペインのパンかご」と呼ばれるエリアです。ワインはなんといっても『ベルデホ』から造られる白ワインが有名な産地で、酸味の保たれたキレのよい味わいが特徴です。ガリシアの「リアス・バイシャス」と並んでスペインの二大白ワインと称されています。

以下のルエダ独自のルールがあります。

  • ビノ・デ・プエブロ(Vino de Pueblo)単一の基礎自治体のブドウ85%以上
  • グラン・ビノ・デ・ルエダ(Gran Vino de Rueda)樹齢30年以上などの条件をクリア
  • ルエダ・エスプモソ・グラン・アニャーダ(Rueda Espumosso Gran Anada)瓶熟成期間が36か月以上のスパークリングワイン
  • ルエダ・パリド(Rueda Palido)酒精強化で、最低3年間オーク樽でフロールのもとで熟成

シガレス

Cigales

岩の多い土壌に植わったテンプラニーリョ(ティンタ・デル・パイス)の古木から良質な赤ワインと、昔ながらのリーズナブルな赤やロゼが造られています。南西にあるトロよりも標高が高く冷涼なため、より酸味とストラクチャーのあるワインになる傾向があります。

気候は乾燥して厳しく、標高650~800mの降水量がやや少ない場所にあるためカビによるブドウの病害が少なく有機栽培が容易です。むしろ干ばつや春の霜害といった気象が一番の脅威となります。

レオン

Leon

古都レオンの南側一帯に広がる産地です。冬は-10℃にまで冷える厳しい自然環境です。メンシア種の赤ワインや土着品種の『プリエト・ピクード』は非常にアロマ豊かな個性的な品種で、高品質な赤ワインとなって人気があります。白はゴデーリョ、ベルデホ、などとともに絶滅の危機にあった土着の白ブドウの『アルバリン』の復活も見逃せません。

アリベス

Arribes

ポルトガルとの国境沿いに伸びる産地。140kmに及ぶ川の渓谷が独特の微気候や土壌をもたらしています。特産は『ブルニャル』で、下流のポルトガルではアルフロシェイロ種として知られています。『ファン・ガルシア』や『ルフェテ』から造られる赤ワインも注目されています。

アルランサ

Arlanza

トレド、セビーリャと並んでスペインの3大カテドラルがある古都「ブルゴス」の南に広がるエリアです。興味深い白と赤がいくつか登場しており、主要品種はテンプラニーリョ(ティンタ・デル・パイス)になっています。

ビエルソ

Bierzo

ドゥエロ川渓谷から離れ、ガリシア州と接する地域にあります。ガリシアのワイン産地を流れてくるシル川沿いにあり、気候条件もガリシアに酷似して大西洋の影響を強く受けます。2000年代に入りメンシアから造られる高品質で冷涼感のある赤ワインで急上昇しています。

粘板岩と珪岩質土壌の段々畑にブドウが植わっており、その8割は樹齢60~100年以上とみられます。優美さとフィネスを備える赤ワインが主に生産されています。

2019年ヴィンテージから産地独自のルールが開始されました。

  • ヴィノ・デ・ビーリャ(Vino de Villa)単一の基礎自治体のブドウ100%
  • ビノ・デ・パラヘ(Vino de Paraje)単一パラへ(同じ基礎自治体の複数区画の集合体)のブドウ100%
  • 格付け畑と特級畑(Vina Clasificada/ビーニャ・クラシフィカーダとGran Vina Clasificada) 

カスティーリャ・イ・レオンの料理

カスティーリャ・イ・レオンは厳しい冬のため、郷土料理にはコシード(煮込み)やソパ・カスティーリャ(ニンニクのスープ)など体を温める料理が多くみられます。これらに合わせるため良質な赤ワインの生産が求められてきました。

コシード(豆と豚肉の煮込み)

ソパ・カスティーリャ(ニンニクのスープにポーチドエッグ)

レチャソ(乳飲み仔羊のグリル)

関連コラム

参考
大滝恭子、長峰好美、山本博/『スペイン・ワイン』/2015年
ヒュー・ジョンソン、ジャンシス・ロビンソン/『世界のワイン図鑑 第8版』/ガイアブックス/2021年
一般社団法人日本ソムリエ協会/『日本ソムリエ協会 教本2024』/一般社団法人日本ソムリエ協会(J.S.A.)/2024年
スペイン大使館経済商務部 発行冊子/『スペインのワイン』/2006年

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