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レポート

水の町・生地で出会う、『皇国晴酒造』の酒造り

水の町・生地で出会う、『皇国晴酒造』の酒造り

モトックスのスタッフによる、日本の酒蔵訪問記。富山県の皇国晴酒造(みくにはれしゅぞう)で経験した、地域ならではの「水のかたち」とは。

水の町・生地で出会う、皇国晴酒造の酒造り

富山県黒部市生地。
蔵の前には「天然のいけす」富山湾が広がり、振り返ると、立山連峰の3,000メートル級の山々がどっしりと佇む。海のすぐそばにありながら、町のあちこちでは清らかな水が湧く。名水百選にも選ばれている「黒部川扇状地湧水群」の地に、皇国晴酒造は位置しています。

蔵の背景に佇む雪の立山連峰。手前には船があり、山から海までの距離が近いことがうかがえる


2026年3月中旬、私たちは皇国晴酒造を訪ねました。代表銘柄「幻の瀧」で知られる同蔵は、黒部市生地で明治15年より酒造りを続ける酒蔵です。蔵の敷地内には名水百選にも含まれる「岩瀬家の清水」があります。皇国晴酒造では、この水を酒造りに使っています。

社長の岩瀬新吾氏と杜氏兼専務の岩瀬由香里氏

水が暮らしの中にある町

生地地区には約20か所の湧水スポットがあり、飲み水としてはもちろん、野菜を洗ったり、冷やしたりする生活水としても親しまれています。1つ1つの湧水で水質が異なり、地元の人はお気に入りの湧水を使われているそうです。

共同の水場。飲み水は上の段、野菜を冷やすのは中段など段々にして用途を分けている。昔は下の段で食器を洗ったりもしていたそう


蔵の足元から湧く仕込み水

皇国晴酒造では敷地内に湧く名水を、米洗いから仕込み、蔵内の掃除にまで贅沢に使用しています。名水百選の湧水が蔵の敷地内で湧き出ている酒蔵は、日本で皇国晴酒造だけと岩瀬社長は語ります。
隣り合うように2つの湧水がありますが、酒造りに使われているのは、地下50mの水脈から湧く軟水。やわらかな水質は、皇国晴酒造の軽やかで清らかな酒質を支えています。そのまま飲むと体にスッと沁みわたりました。
すぐ隣では、地下150mから湧くミネラルを豊かに含んだ水も見ることができます。口に含むと、わずかな塩味があり、昆布のような印象を感じる人もいるといいます。普段の酒造りには使われていないそうですが、岩瀬社長は「いつかこの湧水を使ったお酒を造ってみたい」とおっしゃていました。

ミネラルたっぷりの水が湧く井戸。この水を使ってお米を炊くと美味しいらしい

目に見えない働き手の環境を整えるのが酒造り

1日目は蔵の施設の見学と岩瀬社長からワインと日本酒の造り方の違いについての説明を受けました。
ワインは、ブドウがもともと持っている糖を酵母がアルコールへと変えていきます。一方、日本酒は、米のデンプンを麹の力で糖に変え、その糖を酵母でアルコールへと変えて造る酒です。この二つの変化を同時に進めます。この方法は「並行複発酵」と呼ばれます。
酒造りは、目には見えない麹と酵母の力を引き出すために、温度、水分、時間、衛生環境を一つひとつ整えていく仕事なのだと分かります。

杜氏の説明を受けながら、仕込み中の酒の香りをチェック

湯気の向こうで、酒造りが始まっていた

2日目の朝、蔵に到着すると、すでに「蒸し」の作業が始まっていました。釜場には、蒸し上がる米の甘くあたたかな香りが満ち、白い湯気が柱のように立ちのぼっています。

立ち上る湯気とともに、炊き立てのお米の香りが蔵を満たす


この日蒸されていたのは、そのあとの工程ごとにネットで仕切られた約500kgの米。蒸し上がった米は、仕切りごとにクレーンで吊り上げられ、放冷機へと運ばれていきます。私たちも、仕切りについた米を手ではがし、放冷機へ移す作業を手伝いました。
炊きたてのご飯のように柔らかく粘るのかと思いきや、蒸米は手にまとわりつきません。外はしっかりと締まり、内側はやわらかい「外硬内軟」の状態。酒造りのために整えられた米の感触は、普段食べるのとは違うものでした。
100℃近くで蒸された米を、放冷機を通して40℃前後へ。放冷機を通った米はすぐさま次の工程へと運ばれます。

蒸しあがった米をクレーンで放冷機へ。落ちなかった米は手作業ではがす

米に触れて知る、日本酒造りの繊細さ

醪タンクでは、運ばれてきた蒸米を加え、櫂という道具で混ぜる作業を体験しました。最初は軽く動いていた櫂が、米が入るたびに少しずつ重くなっていきます。(ワイン造りでは、果帽を液中に沈めるピジャージュに通じる作業)
米を入れ終わった後も均一になるように30分以上混ぜ続けます。

このタンクには100キロの米を入れ混ぜ続けた。これでも少ないほう


麹室(こうじむろ)では、床もみの作業も体験しました。放冷機を通る際に杜氏が種麹を振った米を、1ヶ所に集めたあと、ほぐしながら薄く広げていきます。他の菌を持ち込まないよう、手洗いと消毒を徹底し作業を行いました(納豆や柑橘類を前日の夜から食べないようにします)。酒造り期間中に外部の人間が麹室に入れることは非常に稀であり貴重な経験となりました。

コンマ数%を調整する、限定吸水

翌朝に蒸す米の限定吸水も、強く心に残った工程です。米を10kgずつ洗米機に入れ、ネットで受け、水に浸ける。何分で何%の水を吸うかを予測し、時間になると引き上げて重さを量る。10kgの米が13kgになっていれば、30%吸水したことが分かります。吸水時間は米の品種、精米歩合、気温、水温によって異なるそうです。
どれくらい吸水したかによって蒸しあがったときの状態が変わり、最終的には出来上がるお酒の味わいにも関わるため大事な作業です。

洗米機に10キロの米を投入。この作業にも蔵で湧き出る名水が使われる


声を掛け合い、1つ1つ時間を確認し、重さを量り、また次の米へ進む。目標とする吸水率になるよう、途中で吸水時間を調整しながら数百キロの米をどんどん処理していきました。この日は我々5名含め9名で作業していましたが、普段は3名で作業されるそうです。非常にチームワークが必要な作業でした。

桶ごとに何分吸水したか時間を計っている。時間が来たら水を切り重さを量る

皇国晴酒造の酒造り

酒造り体験や、岩瀬新吾社長、岩瀬由香里杜氏のお話を通じて、皇国晴酒造が「酒は造るものではなく、愛情を持って育てるもの」という考えを大切にしていることが伝わってきました。
酒造りは、生き物を相手にする仕事です。丁寧で清潔に、無駄なく、そしてエレガントに。その積み重ねが、皇国晴酒造の酒にある清らかさを支えています。

当社と皇国晴酒造が共同開発した「みずのかたち」は、蔵からこんこんと湧く「岩瀬家の清水」の姿を、お酒で表現した一本です。今回の訪問は、その味わいの奥にある名水と、杜氏・蔵人のみなさんの丁寧な手仕事を知る機会となりました。


皇国晴酒造のCraft Sake(クラフトサケ)

『みずのかたち』

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