山廃とは?
「山廃」とは日本酒の仕込み方のひとつです。
アルコール醗酵の元となる「酒母(しゅぼ)」をつくる工程において、従来の山卸(やまおろし)という作業を廃止(省略)した製法のこと。
「山卸廃止酛(やまおろしはいしもと)」が正式名称で、その酛で醸造した酒のことも一般に「山廃」と呼ばれます。
山卸は重労働!?
山卸は生酛系の酒母をつくる工程で、蒸米・麹・水を桶に入れ、櫂(かい)と呼ばれる棒を使ってすり潰します。山卸をすることで麹や米成分がよく溶け、乳酸菌が繁殖しやすくなります。
山卸は一日に何度も作業を繰り返すため、たいへん時間と労力がかかる重労働でした。

山廃と生酛(きもと)の違い。山廃仕込みのつくりかた
「山廃」は「生酛」の派生で誕生しました。
生酛と山廃の最大の違いは山卸を行うかどうかにあります。
生酛造りは自然の乳酸菌の力で雑菌を排除して、酵母が活動しやすい状態をつくり、アルコール発酵を促進する、江戸時代から続く昔ながらの醸造方法です。
この生酛造りから、重労働だった山卸の工程を省いたのが「山廃仕込み」です。
あらかじめ水に麹の酵素を溶かした「水麹(みずこうじ)」を使用することで、山卸と同じような糖化・乳酸生成を促します。
山廃は山卸の手間を軽減しながらも生酛系の味わいを残す手段として用いられるようになりました。

山廃の味わいの特徴とは
自然の乳酸菌の力で出来上がる生酛・山廃系の日本酒は、しっかりとした力強い味わいが特徴です。
コクや旨味がたっぷりあり、乳酸菌の働きによる酸味がしっかりと味わえます。
近年は飲みやすい山廃も増えており、酸味やコクのバランスを調整しているものも見られます。 酒蔵や銘柄によって個性は大きく異なるので、飲み比べてみる楽しさがあります。
温度による「山廃」の楽しみ方
生酛や山廃の燗酒に向いていると言われています。
温度による味わいの違いをご紹介します。
① ひや酒(20℃)
日本酒の「ひや」は常温のこと。生酛や山廃の日本酒は冷やしすぎてしまうと日本酒の旨味や甘みが感じにくくなり、せっかくの個性が発揮されません。「ひや」の状態である20度前後だと爽やかな酸味がたっぷりと味わえます。
② ぬる燗(40℃)
生酛・山廃系の日本酒で一番オススメしたい温度帯がこの「ぬる燗」です。
少し温めることで酸味の角が取れ、旨味がぐっと前面に出てきます。口当たりが良くなるので、飲みやすさに拍車がかかります。
③ 熱燗(50℃)
しっかり温めることで生酛系の独特な香りが和らぎ、日本酒が持つ酒質の力強さを感じられるようになります。濃い味付けの料理に合わせるときなど、ガツンとした飲み応えが欲しい時におすすめです。

山廃日本酒を飲みやすくする方法
個性が強い日本酒のため、ちょっと飲みづらい…という印象がある方に、生酛・山廃系の日本酒を飲みやすくする簡単な方法をお教えします。
① 割り水燗
日本酒に水を入れてアルコール度数を調整し、ぬる燗程度に温める方法です。
お酒全体量の10%程度のミネラルウォーターを日本酒に足して燗につけます。徳利一本に対しおちょこ一杯ほどが目安です。山廃独特の酸味がマイルドになり、飲みやすくなります。
② お湯割り
焼酎でおなじみのお湯割りは、日本酒にもおすすめです。
耐熱性がある器にまずお湯を注ぎ、そのあとに日本酒を注ぎます。日本酒にお湯を注いでしまうとアルコール分が発揮してしまい、日本酒の香りが強く出てしまいます。そのためこの順番が大切です。割合は日本酒8割、お湯2割がベスト。
こちらもアルコールが和らぎ、日本酒がやわらかい印象になります。
③ 山廃の飲むヨーグルト割り
山廃日本酒と飲むヨーグルトを合わせた日本酒カクテル。酸味が強い山廃とヨーグルトは相性バッチリ!同じ乳酸菌仲間だからこその組み合わせです。
日本酒が苦手という方にも試してほしい飲み方です
山廃系日本酒にあう料理
しっかりとした味わいの日本酒なので、脂がたっぷりのった食材や濃い味付けのお料理があいます。
お刺身や寿司であればサーモンや中トロがおすすめ。火を通したお魚なら、甘辛く煮たブリの照り焼きや鮭のバターホイル焼きなど。より料理の味を膨らませてくれます。
お肉にももちろん合います。山廃がもつ酸味が肉の脂をさっぱりさせてくれるので、スペアリブや味噌漬けのお肉などと好相性です。

おすすめ山廃系日本酒
まなつる 生もと特別純米 原酒
レモングラスやライムピールの香りが瑞々しく引き締まっています。口中でまろやかにゆっくり広がり、心地よい後口に続きます。
まなつる 生もと特別純米 原酒
昔ながらの生もと造りでじっくり醸した日本酒。
華やかな香りと甘やかでふくよかなアタック。すっきりとした酸味があり、切れの良い余韻に変化します。
龍勢 BAILA 新風辛口 生もと特別純米
まろやかな味わいと高めの酸が絶妙。旨味はボリューミーながら、キレの良さで口の中をスッキリさせてくれる優れものです。
伊乎乃 辛口山廃 純米吟醸 原酒
完熟メロンなどのふくよかな香りとスムースな口当たり。すっきりとした酸味にほのかな苦み。コクのある旨味が絶妙なバランスです。
雲ノ上 富士山伏流水仕込
するすると喉を滑り落ちる滑らかさ。富士の超軟水が冴えてます。完熟バナナジュースの爽やかさも感じられる、フルーティーさが特徴です。
蔵元にインタビュー。「山廃酒」の魅力とは?
モトックスは全国の蔵元と協力して、ワインのように世界中で愛される日本酒「Craft Sake」を造っています。
今回は「Craft Sake」の中で山廃酒を造る蔵元にインタビューしました。
それぞれのお酒の特徴と、山廃を造る理由、山廃酒の魅力について、蔵元ごとのコメントをご紹介いたします。
山廃インタビュー①「まなつる」株式会社山下誠志堂 田中酒造店

「まなつる 辛口山廃」の特徴
「まなつる 辛口山廃特別純米酒」は、どっしりとした芳醇な味わい山廃ではなく
スッキリとした酸味としっかりとした旨味のある味わいになっています。山廃特有の熟成感はさほど感じさせず、
冷やでも料理と合わせて飲んで頂く事をイメージした酒質が魅力です。
山廃酒を造る理由とは
手間暇のかかる山廃を作り続ける理由は、代々受け継がれてきた技術を継承するとともに、
他の蔵では出来ないこの蔵独自の味わいを進化させつつ守っていく為です。
蔵元がおすすめしたい山廃酒の魅力
吟醸系のお酒と違い、山廃純米酒は幅広い温度帯で味わって頂ける事が魅力の一つと考えます。冷やして飲めばキレのある味わいに。
常温であればまろやかな旨味と酸味が味わえ、燗にすれば香りが広がり酸味が旨味へと変わる。
そんな色々な味わい方が楽しめる事がこのお酒の魅力です。
山廃インタビュー②「伊乎乃」高の井酒造株式会社

「伊乎乃 山廃純米吟醸」の特徴
「伊乎乃 山廃純米吟醸」は、自然由来の乳酸菌を取り入れる昔ながらの山廃仕込みで造られています。時間と手間をかけて酒母を育てることで、酸味と旨味、そして骨格のある厚みが生まれます。
また、辛口に仕上げているため冷酒・常温・燗酒と温度帯で大きく表情が変わり、幅の広い味わいに合わせることができ、食に寄り添えるお酒です。
山廃酒を造る理由とは
現代の酒造りでは効率的な速醸造りが主流となる中、山廃仕込みはより自然に酵母を育てる技術や時間が必要な製法です。
だからこそ、山廃は蔵の技術力や酒造りへの姿勢がそのまま現れる造りだと考えています。
効率よりも手間を惜しまないことで、伊乎乃としての個性と存在価値を表現したい。その想いから山廃に向き合っています。
蔵元がおすすめしたい山廃酒の魅力
山廃の魅力は、一口目で終わらない奥深さにあります。酸と旨味が重なり合い、飲むほどに味わいが開き、時間と温度変化で新しい表情を見せます。料理と合わせることでさらに真価を発揮し、特に味噌・醤油・肉料理・発酵食との相性は抜群です。
複雑さ、余韻、変化。この“飲む体験の豊かさ”こそ、山廃ならではの魅力です。
山廃インタビュー③「雲ノ上」富士高砂酒造株式会社

「雲ノ上」の特徴
独特の酸味とコクが特徴である一般的な山廃酒とは異なり、非常に柔らかな酸味とスッキリとした口当たりで、ビギナーの方々にも飲みやすさがあります。
山廃酒を造る理由とは
創業者と共に酒造りを行った初代杜氏が能登流杜氏であり、能登流の代表ともいわれる山廃仕込をメインに酒造りを行っています。
その技術が1830年の創業以来伝承されており、静岡県はもとより全国においても、富士高砂は山廃蔵の代表蔵として現在に至ります。
50年先、100年先の未来にも受け継がれている伝承技術を伝えるべく山廃仕込に取り組んでおります。
蔵元がおすすめしたい山廃酒の魅力
山廃酒の特徴である、独特な酸味とコクは、いわゆる「味のある酒」。
蔵に自生している乳酸や硝酸還元菌のチカラを借りて仕込む山廃酒は、土地の気候の他に、仕込を行う建屋の材質等の違いでも、酒の味わいに違いが出ます。それが唯一無二の味わいになるのです。
他とは違う、蔵独特の味わいを楽しめることが、山廃酒の最大の魅力であり特徴だと思います。
富士高砂の山廃酒も、他の酒蔵では味わう事で出来ない唯一無二の山廃酒です。
例えば色々な方々が、自分好みのワインをテイスティングしながら探し当てる様に、自分好みの山廃酒を探し当てるのも面白いのではと思います。
参考:
一般社団法人日本ソムリエ協会/『日本ソムリエ協会 教本2022』/一般社団法人日本ソムリエ協会(J.S.A.)/2022年
山廃仕込み/2025年12月5日閲覧
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B1%B1%E5%BB%83%E4%BB%95%E8%BE%BC%E3%81%BF


