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イタリアワインの特徴。全20州の産地を詳しく解説

イタリアワインの特徴。全20州の産地を詳しく解説

イタリアは、世界有数のワイン生産国で数多くの品種と地域的な特徴を持った銘柄を生産しています。イタリアワインの基本をはじめ、歴史と背景、国内全州の主要な銘柄や代表的なブドウ品種について紹介します。

イタリアワインとブドウ品種の概要

イタリアはワインの生産量においてフランスやスペインと常にトップを争う一大ワイン生産国です。国内20州すべてでワインを生産し、地元消費のカジュアルなものから世界に名の知られる高品質なワインまでバラエティが豊かです。

ブドウは大きく黒ブドウと白ブドウに分けられ、黒は主に赤ワインやロゼワイン、白は主に白ワインやスパークリングワインに使われます。イタリアのブドウ品種は政府が認めているものだけで500種類近くあり、一部の地域でしか知られていない土着品種を入れると2,000種類以上になるとみられています。

イタリアの20州は、大きく北部、中部、南部の3つの地域に分けられます。現在の形に近いイタリアが成立したのは1871年で、それまでのイタリア半島は複数の国家に分かれた状態で統治されていました。そのため州ごとに独自の文化、歴史、地理、そしてブドウ栽培やワイン造りの伝統が反映されています。

多くのブドウ品種、多くのワイン文化が掛け算式に合わさるためイタリアワインは非常に奥深い世界です。足を踏み入れたらとても面白いと思います!

イタリアワインの歴史

ワイン造りはその土地の歴史・文化と密接につながっています。イタリアの歴史を知ることはワインを知ることにつながりますので、少しみていきましょう。

紀元前

イタリアの原始的なワイン造りは紀元前2000年以上前から行われていました。本格的にブドウを栽培するようになったのは紀元前8世紀。隣国のフランスでは紀元前6世紀頃からはじまったとされていますので、イタリアの方が遥か昔にスタートしていました。イタリア南部のシチーリア島、カラーブリア、プーリアなどを植民地としたギリシャ人がその技術を持ち込みました。同じ頃にイタリア中部のトスカーナ周辺を支配していたエトルリア人(起源は今でも不明ながら高度な文明を誇っていました)も栽培・醸造技術を有していました。

ギリシャ、エルトリアに挟まれていたのがローマ人で、彼らは戦いに明け暮れていたため当初はワインに興味を持ちませんでした。やがて紀元前2世紀頃からギリシャ、エトルリアのいいとこどりで造るようになり、ローマ帝国がヨーロッパ広域に拡大していくとともにドイツ、フランス、スペインなどにブドウ栽培を伝えました。

そうやって古代ローマのワイン文化は円熟していきますが、4世紀以降のゲルマン民族による襲撃やローマ帝国の滅亡によりヨーロッパのワイン造りは衰退期を迎えます。復活のきっかけは9世紀。フランク王国のカール大帝がワインの保護を行って徐々に回復していきました。

中世

中世に入るとヨーロッパのワインは教会や修道院が、教育機関や研究所のような役割を果たして文化を牽引します。イタリアでもおなじで、この頃にワインの生産量や品質が向上。『最後の晩餐』でキリストの血を象徴するものとして、キリスト教徒にとって信仰と薬用の位置づけになりました。中世も末期になると経済が発展して食事の一部となって庶民に浸透していきます。

近代

16世紀頃以降に書かれた記述がイタリア各地に多く残されていて、人々のワインへの関心が高かったことを物語ります。しかし、イタリアはこの頃でも分裂支配されていたため国家として発展していくのはさらに後の時代です。ワインにとって一つ大きなトピックを挙げるならば17世紀半ば。ガラス瓶が大量生産できるようになったことでワインの質と量に進化がみられました。

イタリア統一

それまで分裂支配だったイタリアは『サヴォイア家』によって遂に統一されます。サヴォイア家はフランスのサヴォワ地方の支配者で、サヴォワ、ニース、ピエモンテ、ヴァッレ・ダオスタを経てサルデーニャ島にまで統治が及んでいました。サヴォイア王はサルデーニャ島からイタリア半島の統一を試みて、ついに1861年イタリア王国を建国しました。現在イタリアに組み入れられている自治州『ヴァッレ・ダオスタ』(現在でもフランス語圏)はその際にイタリア王国に組み入れられ、逆にサヴォワ地方とニースが援軍の見返りとしてフランス帝国に譲渡されました。

サヴォイア王とともにイタリア統一運動に貢献した重要人物の軍人ガリバルディは、自身の故郷ニースがフランス帝国に渡ったことに失望しながらも、最終的に自身が平定した両シチーリア王国(シチーリア島とカンパーニャ州)をサヴォイア王に譲りイタリア統一の英雄となった人物です。彼はサルデーニャ島の北東に浮かぶカプレーラ島で隠居生活の末に没しました。

こうして誕生した『イタリア王国』はその後、ヴェネト、ローマなどを併合し1871年には現在の形に近いイタリアが成立しました。

イタリアワインの格付け

イタリアワインには『ワイン法』に沿った格付けがあります。この格付けは1963年に制定された最初の規則をベースに作られました。63年当時は伝統あるブドウを地方色のある醸造方法で作ることだけを条件にした「DOS」、ブドウ・ワインの収率やアルコール度数などにより厳しい規定のある「DOC」、最も規定が厳しい「DOCG」に分けられていました。

その後イタリアワイン法はEUの原産地呼称制度に合わせて改変されながら現在に至っています。EU基準には上級ワイン「DOP」、それより下位の「IGP」、「vino」の3分類があり、イタリアでは以下のように運用されています。

DOCG

(Denominazione di Origine Controllata e Garantita)

1963年から続くイタリアの最高ランクの格付けワインで、日本語訳では『保証付原産地統制名称ワイン』です。現在ではDOPと呼ばれるEU基準に相当するように進化しており、DOCよりもさらに厳格です。出荷に際しては国の検査が必要です。

DOC

(Denominazione di Origine Controllata)

これもEU基準のDOPに相当する基準です。『原産地統制名称ワイン』と訳します。ブドウとワインの収率やアルコール度数などに厳しい規定があり、それらをクリアしている必要があります。

EU基準である

  • 品種と特徴が、特殊な地理的環境に起因する
  • 指定地域内で栽培されたブドウのみから醸造する
  • 生産は指定地域内で行う
  • 原料はヴィティス・ヴィニフェラ種(※)のブドウのみ

といった条件もあります。

※ヨーロッパで古くからワイン醸造に使われてきたブドウの系統。カベルネ・ソーヴィニヨンや、シャルドネなど現代のワイン用ブドウのほとんどがヴィティス・ヴィニフェラ種に属します。非ヴィティス・ヴィニフェラ種には北米原産のヴィティス・ラブルスカ種などがあります。

IGP

(Indicazione Geografica Protetta)

地理的表示付き認証ですが、州名のような広域な名称になります。DOCGやDOCよりも規定が緩やかです。良い品質と評判、その産地の特性を持っていること、ワインの85%以上がその土地で造られていることなどが条件となっています。

vino

地理(産地)表示のないワインです。現行のイタリアワイン法(2010年5月~)に改定される以前に存在した『ヴィーノ・ダ・ターヴォラ(vino da tavola)』に相当します。

当時はイタリア国内で生産したブドウを使用していることが条件でした。

イタリアワインによく出てくる用語

クラッシコ

(Classico)

「その銘柄を、古くから造っている畑から造られていること」を意味します。有名な『キアンティ』を例に挙げるとトスカーナ州のフィレンツェとシエナの間にある由緒正しいエリアと、エリア拡大してできた後発のキアンティを区別するために『キアンティ・クラッシコ』を名乗ることのできるエリアが決まっています。ヴェネト州の白『ソアーヴェ』や赤『バルドリーノ』などにもクラッシコの指定地域がみられます。

リゼルヴァ

(Riserva)

主に通常の銘柄よりも長い熟成期間を満たした場合に付記が許可されます。銘柄により規定内容が異なり一定ではありません。最低アルコール度数が高いなどの条件が付く場合があります。

スペリオーレ

(Superiore)

リゼルヴァと同じように『スペリオーレ』の接尾語がつくと上位の銘柄になります。通常の銘柄より最低アルコール度数が高いということが基本です。銘柄によりまちまちですが、法定熟成期間が長さ、木樽熟成などの条件を満たすことが必要になる場合もあります。

パッシート(アパッシメント)

(Passito)

収穫したブドウを風に当てながら乾燥させる作業を「アパッシメント」といいます。できあがった干しブドウに近い状態で造るワインがパッシートです。乾燥するとブドウの成分が凝縮しますので主に甘口になりますが、ヴェネト州の『アマローネ』のような特殊なワインも存在します。

ストリコ

(storico)

スパークリングワインのうち歴史的地区で生産されたことを示す言葉です。スティルワインの『クラッシコ』にあたる表示です。2010年5月11日に施行された新しいイタリアワイン法で追加された表記。

スプマンテ

(spumante)

スパークリングワインのことです。正式にはヴィーノ・スプマンテ(Vino Spumante)で一般的にスプマンテと呼ばれています。20℃で3気圧のガス圧があります。

フリッツァンテ(フリッザンテ)

弱発泡のスパークリングワインのことです。ヴィーノ・フリッツァンテ(Vino Frizzante)が正式名称でガス圧は20℃で1~2.5気圧、アルコール度数は7.5%以上です。

北部の特徴

北側をはしるアルプス山脈から、山の影響を受けるのが特徴です。とくに冬は寒く、山岳エリアではオリーブオイルよりもバターやラードを使ったコクのある料理が見受けられます。高級赤ワインを生むピエモンテ州や、高級白ワインのフリウリ・ヴェネツィア・ジューリア州、イタリア最高峰のスパークリングワイン『フランチャコルタ』を産するロンバルディア州はとくに重要なワイン産地です。文化的にフランスやドイツの影響を受ける地域が見られます。

中部の特徴

中央にアペニン山脈がはしり、西側はティレニア海、東側はアドリア海に面する中部地域は、首都ローマやイタリア屈指のワイン産地トスカーナ州を擁します。古代ローマや、エルトリア人(トスカーナ)の時代から脈々とワインが造られてきました。イタリアワインの代名詞ともいえる『キアンティ』や『ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ』などのDOCGワインはとくに重要な銘柄です。また、フランス系品種を使った「スーパータスカン(=トスカーナ)」と呼ばれる高品質な赤ワインも人気です。

南部の特徴

南イタリアは温暖で日照量に恵まれた地域です。ギリシャに支配されていた古代からワイン造りが行われおり、現在でもギリシャの影響が見受けられます。南イタリアを代表する赤ワインの『タウラージ』をはじめ造られるワインは赤ワインに注目が集まりますが、白ワインも見過ごしは厳禁です。カンパーニア州シチーリア州などに銘醸地があり、近年注目を浴びているシチーリアのエトナ火山にあるブドウ畑や、高級ワイン産地として変貌を遂げつつあるプーリア州など、動向の気になるワイン産地が目白押しです。

ヴァッレ・ダオスタ州

フランスのサヴォワ地方にあったサヴォイア家によって統治されていた歴史をもつ、フランス語圏の自治州です(自治州はイタリアに5州あります)。イタリアで最も小さく、州全体が山岳地帯で高い標高を持ちます。州都はアオスタ。ヨーロッパ最高峰の「モンブラン」(モンテ・ビアンコ)、「マッターホルン」(チェルヴィーノ)などに囲まれる典型的なアルプス気候で、冬も夏も冷涼です。ヴァカンスに人気があり夏は登山やハイキング、冬にはスキーのため観光客が訪れます。

山岳地帯で耕作できる土地が狭いためブドウ畑はドーラ・バルテア川の両岸に集中しています。それでも生産量は少なく、地元消費されるのでここのワインを州外で手に入れるのは難しいですが、貴重で個性的な味わいを楽しむことができます。

  • 長命な赤ワインを生む土着のフミン種(アオスタで最も歴史が長い)
  • 独特の繊細さがあるドンナス村のネッビオーロ種
  • ラ・サル村とモルジェ村のプリエ・ブラン種から造られる軽い白『ブラン・ド・モルジェ』と『ブラン・ド・ラ・サル』
  • ミュスカ種から造られる甘口『シャンバーヴ・ミュスカ』(辛口もある)
  • ピノ・グリ種から造られる白『ニュス・マルヴォワジー』とプティ・ルージュ種がベースの『ニュス・ルージュ』

などが造られています。

ピエモンテ州

イタリアの北西部に位置し、アルプス山脈の麓にあります。州都はフィアット・グループの本社が所在するトリノです。サッカーチームのユヴェントスFCの本拠地でもあります。ヴァッレ・ダオスタ州とおなじくフランスに隣接し、サヴォイア家によって治められていたことからフランス文化の影響が色濃くみられます。その影響は食文化やワインにも表れていて『スローフード』の発祥の地でもあります。ピエモンテの人は派手なことは好まず控えめ。まじめでよく働き、伝統を重んじる州です。

ピエモンテ州はトスカーナ州とならぶ赤ワインの重要産地です。その品質は高くDOCGに18銘柄、DOCに41銘柄が選ばれています(2023年データ)。イタリアでは珍しく厳格に管理された単一畑や単一品種のワインが見られるのも大きな特徴です。ですからピエモンテ州の重要なワインはブドウ品種ごとに見ていくのがおすすめです。

ネッビオーロ

高級な赤ワイン用のブドウ品種です。熟すと果皮が厚い果粉(プルーム)で覆われて霧のように見えることから「霧=ネッビア」の名前がついたとされています。この品種から造られるイタリアワインの王『バローロ』や、女王『バルバレスコ』といった銘柄は世界中から賞賛されています。よりリーズナブルに楽しめる『ネッビオーロ・ダルバ』『ロエロ・ロッソ』などでもネッビオーロの気品を感じることができます。

バルベーラ

完熟しても酸味が高く、フレッシュで鮮やかなチェリーのフレーバーがあるチャーミングな味わいのワインができます。タンニンがソフトで親しみやすいのも特徴です。『バルベ―ラ・ダルバ』『バルベ―ラ・ダスティ』などが代表銘柄です。地元で最も愛されている赤ワイン用の品種がバルベ―ラです。

ドルチェット

バルベ―ラ同様に地元で大変愛されているブドウ品種です。色が濃くソフトでまろやか。果実味にあふれたワインになります。ネッビオーロやバルベ―ラよりも早熟であるため、主要銘柄の『ドルチェット・ダルバ』は「デイリーワインのチャンピョン」と呼ばれ、根強い人気があります。

白ワインも優秀な銘柄があり、シャルドネのような国際品種を使った高級品が生産されています。また、ピエモンテに特有なブドウ品種もあります。

コルテーゼ

火打石、ハチミツ、ハーブの香りがあるすっきりとした味わいの白ワインができます。代表銘柄には『ガヴィ』が挙げられます。

アルネイス

チャーミングで果実味があり優しい味わいの白ワインができます。代表銘柄は『ロエロ・アルネイス』など。

モスカート・ビアンコ

日本でもおなじみのマスカット系の品種です。主に甘口スパークリングワインの『アスティ』や微発泡の『モスカート・ダスティ』で味わうことができます。

リグーリア州

イタリアの北西部に位置し、ティレニア海に面して弓形に細長く伸びる州です。州都はイタリア最大の港町であるジェノヴァ。チンクエ・テッレに代表される海岸沿いの風光明媚な景観や海の幸に恵まれたリゾート地としても知られています。香り高いハーブができ、バジルと松の実にパルミジャーノとオリーブオイルを加えた「ペスト・ジェノヴェーゼ」は有名です。

リグーリア州で造られるワインは、白ワインが65%です。南の地中海と北側のアルプス、アペニン山脈に挟まれて細長く平地が伸びる地形ためブドウの生育する余地がほとんどありません。そのため生産量はヴァッレ・ダオスタ州に次いで少ないうえ地元住民と観光客に消費されるため、州外で手に入れることは簡単ではありません。ワインは個性的で見つける価値のあるもので、一番の魅力は100種類以上とも言われる土着のブドウ品種です。成熟した果実味を持ちながら重くなりすぎず爽やかなアロマとフレッシュな飲み口のものが多くみられます。

ヴェルメンティーノ と ピガート

白ブドウの「ピガート」はリグーリア州で栽培されている品種です。北イタリア~南フランスの地中海沿岸で主に栽培される「ヴェルメンティーノ」と同じ品種であることが示唆されています。香り高く黄桃のようなアロマを持ち、心地よい塩っぽさ(ミネラル感)とグレープフルーツのようなさわやかな苦みのあるワインになります。

主な銘柄

 チンクエ・テッレ
海岸沿いにある5つの村の総称です。海に迫る絶壁にある段々畑の風景で世界遺産に登録されている地域です。土着品種のボスコ、アルバローラと、ヴェルメンティーノをブレンドして造られる辛口の白ワインです。果皮と共に醗酵させるのが伝統的な造り方で、濃い色調をしています。

コッリ・ディ・ルーニ
トスカーナ地方にまたがるエリアで造られる、ミネラルあふれる優美なヴェルメンティーノの白と、味わい深いサンジョヴェーゼをベースにした赤。白が特筆に値します。

ロッセーゼ・ディ・ドルチェアックア
リグーリア州で最初にDOCを取得した最も重要な赤ワインです。土着品種の「ロッセーゼ」は心地よい果実味とかすかなスパイシーさがあります。軽やかでエレガントな味わいのものから、しっかりした味わいのものまで様々です。

ロンバルディア州

イタリア北中部にある内陸の州で、北はスイスとの国境に接しています。イタリアで最も人口が多く、最も裕福な州です。工業や金融、商業の中心地である州都のミラノは、ファッションやジャーナリズム、出版の中心地です。ルネッサンス期に花開いた芸術の代表作品「最後の晩餐」、オペラの殿堂「スカラ座」といった華々しい側面の一方で伝統を重んじる農村地帯でもあり「ミラノ風(ミラネーゼ)」の名前がついた郷土料理が多くみられます。

ロンバルディア州で造られるワインにはイタリア随一のスパークリングワインとして名高い『フランチャコルタ』を筆頭に、多様な品種やスタイルがあります。

フランチャコルタ

イタリア中央部東にあるイゼオ湖南部で造られている高級スプマンテ(スパークリングワイン)です。フランスのシャンパーニュ(シャンパン)と同じく瓶内二次醗酵によって、シャルドネやピノ・ネロ(ピノ・ノワール)を使って造られますが、法定熟成期間はシャンパーニュより長く、酸味がまろやかで果実感豊かな味わいが特徴です。

ヴァルテッリーナ

北部のソンドリオ県で「キヴァンナスカ」と呼ばれているネッビオーロから造られる赤ワインです。切り立った山の急斜面で困難を乗り越えながら栽培されるのが大きな特徴です。ヴァルテッリーナ(DOC)、ワンランク上のヴァルテッリーナ・スペリオーレ(DOCG)と、陰干しして造られるスフォルザート・ディ・ヴァルテッリーナ(DOCG)があります。

スフォルザート(スフルサット)はアルコール度数が14%以上と少々高めですが、濃厚になりすぎず、フレッシュさを持ち合わせています。木樽での熟成を必要とするために、コクのある特徴的な香りがあります。

オルトレポ・パヴェーゼ

南西部のパヴィア県に広がる一大産地です。ミラノで消費される大量のワインのため質よりも量が求められてきましたが、近年は質の高いワインにシフトしています。スパークリングワインの『オルトレポ・パヴェーゼ・メトード・クラッシコ・スプマンテ(DOCG)』は、フランチャコルタと同じく瓶内二次醗酵で造られますが、ピノ・ネロがメイン(70%以上)に使われます。女性的でふくよかなボディーが感じられる優しい味わいかつ、果実味を強く感じる風味を持ち合わせます。

トレンティーノ・アルト・アディジェ州

イタリア北東部にある内陸の州で、北側はオーストリア、スイスとの国境になっています。州都はトレント。イタリアに5つある特別自治州のひとつで、北部のボルツァーノ自治県、南部のトレント自治県に分かれています。ボルツァーノ自治県はアルト・アディジェ地方にあり、以前チロル地方と呼ばれていた地域の一部(南チロル)でドイツ語圏。南部のトレント自治県はトレンティーノ地方にあり、イタリア語圏になっています。

州を南北に貫くアディジェ川の両側に世界遺産のドロミティ山塊がそびえる風光明媚な山岳エリアです。造られるワインは、ドロミティやアルプス山脈に囲まれた高地で栽培されたブドウから造られるもので、イタリアを代表するレベルの白ワインスパークリングワインがとくに有名です。

北部ボルツァーノ

農家が栽培を行い、ワインの生産と販売を組合が行うことが多いです。単一のブドウ品種から造られる白ワインが多く、その品質は高く評価されるものばかりです。酸と香りが高く、ボリュームがありクリーンな味わいです。ソーヴィニヨン・ブラン、シャルドネ、ピノ・ビアンコをはじめ、ゲビュルツ・トラミネール(この州にあるトラミン村がその発祥という説がある)、リースリング、ミュラー・トゥルガウなど。

赤ワインも同じく高品質なもので、ピノ・ネロ(ピノ・ノワール)、薄い色調のスキアーヴァなど。狭い平地に古くから植わっていたラグレインは、大戦後の住宅開発などによりその畑が失われてしまい希少なものとなっていますが、長命な赤ワインを生み出します。

南部トレント

瓶内二次醗酵による高品質なスパークリングワインが世界的に有名です。主にシャルドネやピノ・ネロを使い、規模の大きな生産者が活躍しています。そのほかには地元で消費されるテロルデゴの赤ワインや、アロマティックなミュラー・トゥルガウの白ワインが挙げられます。

ヴェネト州

イタリア北東部に位置し、水の都ヴェネツィアを州都とするワインの宝庫です。イタリアで最も多くのワインを生産する州(2020推定値データ)で、赤白どちらもバラエティ豊かな品種があります。世界的に需要の高まっているスパークリングワイン『プロセッコ』、陰干しブドウで造る濃厚な赤の『アマローネ』、ポピュラーな白ワインの『ソアーヴェ』や甘口にも素晴らしいワインが見られます。

プロセッコ

DOCに認定されているスパークリングワインで、グレーラ種を主体におもに辛口が造られています。世界中で需要が急増している重要な銘柄です。2021年からロゼの生産が始まりました。白い花や、青りんごといった爽やかとふくよかさを併せもちます。

ソアーヴェ

ガルガーネガという土着品種を主体に造られる白ワインです。通常のソアーヴェ(DOC)に加えて古くからの生産地域から造られるソアーヴェ・クラッシコ(DOC)、斜面の畑で造られるソアーヴェ・スペリオーレ(クラッシコもあり、ともにDOCG)があります。ソアーヴェは「口当たりがよい」という意味。主に辛口でよい生産者の銘柄には厚みがあります。収穫したブドウを陰干しして甘口のレチョート・ディ・ソアーヴェ(DOCG)も有名です。

ヴァルポリチェッラ

ソアーヴェに隣接したエリアで造られる赤ワインです。コルヴィーナ、ヴェロネーゼとロンディネッラが主体。古くからの生産地域で造られるヴァルポリチェッラ・コラッシコ(DOC)と、通常よりも品質の高いヴァルポリチェッラ・スペリオーレ(DOC)があります。

陰干ししたブドウから造られる『アマローネ・デッラ・ヴァルポリチェッラ(DOCG)』は濃厚な高級赤ワインで、その力強さから多くのワインファンを魅了しています。アマローネのブドウ搾りかすを通常のヴァルポリチェッラに入れて再醗酵させるリパッソ(DOC)の手法や、陰干しブドウから造られる甘口「レチョート・デッラ・ヴァルポリチェッラ」(DOCG)といった独特な製法のワインがあるのも魅力です。

バルドリーノ

ヴァルポリチェッラのエリアから川を挟んだ対岸側で造られています。赤ワインが有名です。使用されるブドウ品種はヴァルポリチェッラと似たブレンドですが、ワインのスタイルは異なり軽快で優美。飲みやすくてチャーミングです。通常のバルドリーノ(DOC)と上級のバルドリーノ・スーペリオーレ(DOCG)があります。

フリウリ・ヴェネツィア・ジューリア州

州都はトリエステ。イタリア北東部に位置し、スロヴェニアやオーストリアと国境を接する多様な文化の地域です。この州はイタリア随一の白ワインオレンジワインの産地として有名で、国際品種や土着品種から多様なワインが生産されています。

白ワインは前出のトレンティーノ・アルト・アディジェ州も有名ですが、フリウリ・ヴェネッツィア・ジューリア州では組合組織ではなく個人経営のワイナリーが支配的です。南に面するアドリア海からの影響と、北側のアルプスが風や土壌に及ぼす影響の両方が作用する特殊な環境になっています。

コッリオ(コッリオ・ゴリツィアーノ)

州で最も有名なDOCを産するエリアです。良質な果実味と適度なミネラルをもち、心地よく複雑さのある白ワインが生まれます。様々な品種が使われますが、「ピノ・グリージョ」は世界的に人気です。地品種の「フリウラーノ」と「リボッラ・ジャッラ」も注目に値します。深みのある黄色をしたリボッラ・ジャッラは、しばしば果皮とともに醗酵を行ったオレンジワインにされます。標高は50~120mほど。コッリオのなかでもオスラヴィア地区は別格とされ、トップ生産者が集まっています。

フリウリ・コッリ・オリエンターリ

コッリオの北西隣にある産地です。アドリア海の温かい風の影響が弱まるため、コッリオより寒い大陸的な気候になります。海抜100~350mの高さですが、かつて海の底だったため独特な土壌をしており、コルモンス(町の名前)にちなんで「コルモンスのフリッシュ(=地層の名前)」と呼ばれています。

自品種のピコリットが地元の誇りで、干し草や花の香りのする甘口白ワイン、コッリ・オリエンターリ・デル・フリウリ・ピコリット(DOCG)が造られます。

フリウリ・イソンツォ

コッリオから南、海のほうへ坂を下った平野部に広がるエリアです。アドリア海に注ぐイソンツォ川が、このエリアを横切ります。コッリオのような丘陵地に比べ肥沃で温暖なため、このエリアのワインは大味になりがちですが、並大抵ではない努力によって卓越したワインを造り出す生産者が見られます。見逃すことのできないエリアです。

その他のトピック

州全体で赤ワインの生産も盛んになってきており、注目されています。カベルネ、メルローといった国際品種に加え、スキオペッティーノレフォスコピニョーロのような地品種が品種名入りのワインとなっています。

エミリア=ロマーニャ州

イタリア北東部に位置し、北部のエミリア地方と南部のロマーニャ地方に分かれています。州都のボローニャはヨーロッパ最古の大学として知られるボローニャ大学や、パスタのミートソース「ボロネーゼ」の発祥の地としても有名です。この州は食材の宝庫で、パルミジャーノ(チーズ)やバルサミコ酢、パルマ産生ハムなどの特産品がたくさんあります。

ランブルスコ

エミリア地方で造られる赤のスパークリングワイン(弱~微発泡)として知られています。白やロゼ、甘口から辛口までさまざまなタイプがあり、心地よいスミレの香りと程よいボリュームが特徴で、フレッシュかつエレガント。「コランブルスコ・ソルバーラ種」から造られたものは特に優美です。いずれの銘柄でもパルマ産生ハムやピザなどと相性が良いです。

『ランブルスコ』のスペシャルサイト

ロマーニャ・アルバーナ

ロマーニャ地方の丘陵地帯で造られる白ワインで、DOCGに認定されています。桃やアプリコットの香りで親しみやすい味わいです。使われるのはアルバーナというブドウ品種でやや甘口~甘口が多くみられますが、辛口やスパークリングワインもあります。

ロマーニャ・サンジョヴェーゼ

隣のトスカーナ地方を代表する品種「サンジョヴェーゼ」から造られる赤ワインです。ロマーニャ産のサンジョヴェーゼは生産者によって品質にばらつきがありますが、良い生産者のものはトスカーナとは違う個性の洗練された味わいを楽しませてくれます。

トスカーナ州

トスカーナ地方は州都のフィレンツェを筆頭にイタリア文化の重要な中心地です。紀元前に高い文明を誇って中部イタリアを支配していた「エトルリア」が現在の「トスカーナ」の語源で、トスカーナ語が現在のイタリア語のベースになりました。12世紀にシエナフィレンツェの2つの街が台頭し、14、5世紀にはメディチ家が治めたトスカーナ大公国となってルネッサンスの中心になりました。

ワインについてもイタリアをリードする最先端の存在であり、『キアンティ・クラッシコ』を筆頭に重要な銘柄が目白押しです。詳しい解説は別コンテンツにありますので、下記のページをご覧ください ⇩

ウンブリア州

70%を緑色の美しい丘陵地帯が占めるイタリアの「緑の心臓」です。隣のトスカーナ州とおなじく紀元前の「古代エルトリア」時代から栄えていて、とくに州都であるペルージャは重要な都市でした。現在は外国人大学があり多くの留学生が学ぶ国際色豊かな一面があり、世界的なジャズフェスに世界中から人々が訪れます。フランチェスコ会を創設した聖フランチェスコの出身地とされる「アッシジ」や、凝灰岩の丘の上にある「オルヴィエート」の美しい街も観光客を迎えています。オルヴィエートはグルメでも知られており、特産の黒トリュフを使った料理の数々はとくに有名です。

良質なデイリーワインが州内各地で造られていますが、石灰質土壌の丘陵地帯はブドウ栽培に適しており高品質なワインを生む偉大な潜在力をもっています。ミントのようなハーブのアロマとビターな余韻が特徴の白ブドウ『グレケット』、北部のモンテファルコを故郷にもつ黒ブドウの『サグランティーノ』の長命な赤ワインはウンブリア州が世界に送り出す宝物となっています。

モンテファルコ・サグランティーノ

DOCGに認定されている赤ワインです。主体となるサグランティーノ種は個性的な品種でポリフェノールの含有量が非常に多く、色素やタンニンが豊かで若いうちは屈強な味わいです。長い熟成によってタンニンはビロードのように洗練されて丸みを帯びた味わいになります。

オルヴィエート

州の南部、隣のマルケ州にまたがるエリアで造られる白ワインでDOCに認定されています。特定の古い地域のものには『クラッシコ』の表示が認められます。グレケット種を40%以上使用したワインで、歴史的には甘口として知られていました。時代がかわり現代では辛口で世界的な名声を得ています。

マルケ州

イタリア中部のアドリア海に面した州で、州都は古代から港町として栄えるアンコーナです。ワイン造りの歴史は古代ローマ時代まで遡ります。マルケ州のワインは白ワインと赤ワインがほぼ同じ割合で生産されていますが、白ワインの方が世界的に有名です。オペラ作家で美食家でもあったロッシーニはこの州の出身です。

マルケ州は丘陵地帯69%、31%が山岳地帯のため平野部がほとんどありません。ブドウは美しい丘陵地帯で育てられており、生産されるのは白ワインがやや多めです(53%・2016年データ)。ヴェルデッキオは州全体で広く栽培されている白ブドウでレモンのような酸味と充分なエキス分、フレッシュさを併せ持つため熟成可能なワインを生み出します。それに次いでペコリーノ、パッセリーナ、ビアンケッロが重要です。赤ワイン用の品種ではモンテプルチアーノを使うDOCGが見られます。個性的なアロマを放つラクリマ、サンジョヴェーゼなども用いられます。

ラツィオ州

イタリア中部にある州で、イタリアの首都ローマを州都としています。ワイン造りは古代に南イタリアを支配していたギリシャと、トスカーナのエルトリア人の影響をうけ「世界の中心」であった古代ローマの時代から栄えました。中世には言わずと知れたローマ・カトリックの総本山となり、現在では政治、ジャーナリズム、芸能の中心地です。ロンバルディア州に次いで国内総生産は2位。そのほとんどは第三次産業によるものです。州の54%を占める丘陵地帯ではブドウ栽培が盛んで、名物料理のサルティンボッカ、ポルケッタ、スパゲッティ・カルボナーラのような美食のテーブルを彩るワインが生産されています。

ラツィオ州のワインは白ワインが多くを占めています(約72%)。ローマの南東に貴族や高位聖職者の別荘が並んでいた丘陵地帯『カステッリ・ロマーニ』があり、そこでは6銘柄の白ワインが造られています。ローマでは肉料理にもこのエリアの白ワインを合わせるのがふつう。『フラスカーティ』や、州北部で造られる『エスト・エスト・エスト・ディ・モンテフィアスコーネ』がラッツィオの有名白ワインです。赤ワインではチェザネーゼ・デル・ピーリオがDOCGに認定されています。

アブルッツォ州

州都はラクイラで、アドリア海とアペニン山脈に挟まれた自然豊かな地域です。ワイン造りの歴史は古く、イタリア屈指のワイン生産量を誇ります。経済的には非常に遅れていて戦前までは最も貧しい週のひとつでしたが1960年以降にローマとつながる高速道路が完成して成長し、今日では工業化が進んでいます。日本でも馴染みのあるパスタメーカー『ディ・チェコ(De Cecco)』はアブルッツォ州の企業です。

ブドウ栽培には非常に恵まれた環境で、それほど努力しなくても良いブドウが栽培できるというメリットがあります。モンテプルチアーノ種から造られる赤ワイン『モンテプルチアーノ・ダブルッツォ』はこの州を代表する銘柄で、濃いルビーレッドの色合いと豊かな果実味、しっかりとした味わいが特徴です。コストパフォーマンスの高さも魅力で、日本でも人気が高いイタリアワインの代表格です。白ワインの『トレッビアーノ・ダブルッツォ』も普段飲みに適した優良銘柄です。

モリーゼ州

1963年にアブルッツォ州から分離してできたイタリアで最も新しい州です。イタリアで最も知名度の低い州のひとつで人口は32万人ほど。ヴァッレ・ダオスタ州に次いで少ない数字です。55%が山岳地帯、45%は丘陵地帯で平地はほとんどありません。経済はあまり発展していませんが手つかずの自然が保存されていて美しく、今でも羊の移動放牧がおこなわれるほど牧歌的な光景が見られます。家族や伝統を大切にする保守的な人柄が印象的です。観光業が伸びつつあり、その州都はカンポバッソです。

モリーゼ州で造られるワインは、地元消費が中心であまり知られてきませんでした。DOCGはなく、4つのDOCが認められています(2024年1月現在)。栽培されているブドウ品種は両隣のアブルッツォ州やカンパーニャ州と共通しています。唯一の土着品種は黒ブドウの『ティンティリア』。濃い紫色でしっかりとした赤ワインが生まれます。

ティンティリア・デル・モリーゼ

地品種の黒ブドウ『ティンティリア』を95%以上使います。2011年にDOCに認定されました。

ビフェルノ

モンテプルチアーノ、アリアニコを主体にブレンドされる赤とロゼ。トレッビアーノ・トスカーノを主体にする白があります。モリーゼ州で最初にDOCとなった銘柄です。

カンパーニア州

人口は583万人ほどとロンバルディア州に次いで多く、人口密度は最も高い州です。風光明媚な州で全域が観光名所といって過言ではありません。州都は「見てから死ね」と言われるほど美しい港町ナポリで南イタリアの中心都市として栄えてきました。

南イタリアは古代にギリシャからワイン造りが伝わったため、後のローマ帝国の時代には既にイタリア全域で最も名高いワインを生み出していました。ナポリの東にある内陸の山間部にあるアヴェッリーノ地方では、イタリアで最も重要な赤ワイン銘柄のひとつ『タウラージ』をはじめ、『フィアーノ・ディ・アヴェッリーノ』『グレコ・ディ・トゥーフォ』といった高級白ワインが産出されます。また、ナポリ近郊の海岸沿いにもワイン産地が見られます。別のコンテンツで詳しくご紹介しています ⇩

プーリア州

イタリア半島をブーツに例えるとちょうど「アキレス腱~かかと」の部分がプーリア州になります。州都はバーリ。古くから交易の拠点として栄えてきた州で、ギリシャとイタリア半島が交易するうえでの玄関口として、ターラントやプリンディッチといった港町は有名なアッピア街道でローマと深くつながっていました。イタリアのなかでは平地の割合が高く州全体の約53%。そのため農業が盛んな州でオリーブ、トマト、小麦といったイタリアの食卓に欠かせない作物の生産量が国内トップ。肉料理に加えて魚を食べる文化も盛んです。プーリア人はいかにも南部の人らしくのんびりとしていて、伝統を大切にする傾向があります。

温暖でのんびりした空気の中、ブドウの栽培も盛んです。栽培の歴史はギリシャの影響から古代ローマよりも古く、一昔前まではイタリアの北部やフランスワインのアルコール度数を高めるためにバローロやキアンティといった有名なワインにブレンド(当時は合法でした)される安価なワインや、果汁を濃縮して造る酒精強化ワイン『ヴェルモット』の素材になるために瓶詰される前にタンクの状態で売却されていました。しかし近年その様子はダイナミックに様変わりしています。栽培技術の向上により高品質のワインが地元のワイナリーで瓶詰されて販売されるようになり、ワインの生産量はヴェネト州に続く国内2位の地位を固めつつあります。

詳しい州の説明は別コンテンツにしました⇩

バジリカータ州

州都は標高819mに位置するポテンツァです。山により隔離されているので地理的に孤立しており交通の便が悪いのですが、この州には自然と人間が調和する環境が残されています。アペニン山脈の山岳地帯が州の多くを占めており、全体的に起伏の多い地形です。バジリカータ州で造られるワインは、古代からの伝統を持ち、土着品種による個性的なワインが多いです。

死火山ヴルトゥレ山の東側斜面から麓にかけて、標高300~700mの丘陵で栽培されるアリアニコ種を使ったDOCワイン『アリアニコ・デル・ヴルトゥレ』がこの州を代表する銘柄です。上級のスーペリオーレは州で唯一のDOCGに選ばれています。アリアニコ種のワインはカンパーニア州の「タウラージ」が最も高名な銘柄ですが、バジリカータ州産のものはお値打ち品。気温が低く収穫は秋深い時期になるため酸とタンニンを蓄えて堅固ながら、味わいはみずみずしくミネラルに溢れます。

ヴルトゥレ山の東側斜面に畑がひろがっており、高い標高の火山性土壌の畑では寒暖差の大きさを伴いながら硬いタイプのワインができます。標高が下がるにつれて火山性土壌の影響が少なくなり温暖で果実味豊かなタイプになります。

標高高めの畑をもつワイナリー『カーサ・ヴィニコラ・ダンジェロ』

標高低めの畑を所有しているワイナリー『カンティーナ・ディオメーデ』

カラーブリア州

イタリア半島の南端、つま先の部分にあたるカラブリア半島に位置します。州都はカタンザーロ。古代ギリシャが支配していた「マグナ・グラエキア」(シチーリア島と南イタリアの一帯)と呼ばれたエリアの重要な都市がカラーブリア州の海岸沿いに建設されて繁栄していました。現在は地理的に辺境にあることから交通の便が悪く、経済的にはあまり発展していませんが農業は非常に重要な産業となっていて国内生産2位のオリーブオイルやベルガモットをはじめとした柑橘類、穀物生産が盛んです。オリーブオイルと名産の唐辛子を使ったはっきりした味わいの郷土料理も見逃せません。夏には美しい海岸を求めてバカンスの観光客が押し寄せます。

古代ギリシャ支配の時代にはカラーブリアを指して「エノトリア(=ワインの大地)」という言葉が生まれました。古代オリンピックの勝者に与えられたカラーブリアのクリミサのワインは、今日の銘柄『チロ』の祖先であると考えられています。カラーブリアは地品種の宝庫です。一昔前は醸造技術的に遅れたワインが目立ちましたが、最近は進歩していてその偉大な潜在力を垣間見せつつあります。

チロ

マイナーな産地であるカラーブリアの中では比較的知名度がある銘柄です。代名詞といえるのは赤ワインで、サンジョヴェーゼの近親品種である『ガリオッポ』から造られています。力強さと繊細さに加え、香り高さが備わり包み込むような味わいを楽しませてくれます。

グレーコ・ディ・ビアンコ

収穫後のグレーコ・ビアンコ種をメインに、棚につるすか太陽熱で温まった石の上でブドウの水分を減らしてから醗酵を行います。出来上がるのは甘口で、長年熟成すると琥珀色をした辛口になります。南イタリア屈指の銘酒ですが年間の生産量は12klほどしかありません。

地品種

白ブドウの『グレーコ・ビアンコ』、『モントニコ』、『ペコレッロ』
黒ブドウの『ガリオッポ』、『マリオッコ』、『グレーコ・ネーロ』
カラーブリア州の地品種は可能性を感じさせるものが多く、州のワインが開花していくうえでこれらの品種は再注目されるかもしれません。

シチーリア州

イタリア最南端の島と周辺の島々からなる州です。島は四国より大きく、九州よりは小さいくらいのサイズで州都は港町のパレルモ。古くから地中海の覇権を争うために戦略的な要所、また交易の拠点にもなった場所で、古代はギリシャから、イスラム、アフリカ、スペイン、フランスなどの統治によって様々な文化の影響を受けてきました。現在でもギリシャやアラブの文化が色濃く残り、「自治州」として治められています。

シチーリア州はイタリア最大の面積を誇る州です。ワインの生産は盛んで国内で国内4位の勢力となっています。島の個性が存分に発揮された豊かな味わいは大変魅力的です。理想的な気候によって大量のワインを造ってきた時代から質に重きをおくことに方向転換したことから、この島のワイン人気は時代とともに進化を続けています。詳しい解説はこちらの別ページでご覧ください。⇩

サルデーニャ州

ティレニア海に浮かぶ、シチーリアに次いで大きな島です。州都はカリアリで、島の南部に位置する港町です。イタリア半島から離れた場所にあり、隣にあるコルシカ島(コルス)はフランス領であることから地理的、文化的に隔離され独自性が強まりました。島であることから歴史的に様々な統治がなされて文化的に影響を受けてきました。それでもサルデーニャ人は頑に「山の文化」を守った人たちで、とくに内陸地ではその傾向が高くなります。独自の文化があるため州はイタリアに5つある特別自治州のひとつです。周辺の島々も含めてサルデーニャ自治州を構成しています。

分割統治されていたイタリア半島を統一したフランス出身のサヴォイア家はサルデーニャ島を起点に統一を成し遂げました。さらに統一の過程で活躍した英雄ガリバルディはこの州に浮かぶカプレーラ島で隠居生活を送った後に没しました。このようにサルデーニャは今でもイタリア統一を語るうえで外せない舞台となっています。

様々な統治に翻弄されてきたサルデーニャ島ですが、ワインの面で大きな影響を受けたのは1708年まで4世紀にわたって続いた「アラゴン」の支配時代です。そのため現在でも栽培が続いているブドウ品種の中にはスペイン由来のものが見られます。

黒ブドウの『カンノナウ』は地元の花形品種で、スペインの「ガルナッチャ(フランスではグルナッシュ)」。ほかにも『カリニャーノ』もスペインの「マスエーロ(フランスではカリニャン)」と同一であることがわかっています。
白ブドウの『ヴェルメンティーノ』はリグーリア州や南フランスの一帯で栽培されるポピュラーな品種で、リグーリアでは「ピガート」、そこからピエモンテ州に伝わって「ファヴォリータ」の名称で栽培されています。

カンノナウ・ディ・サルデーニャ

州の全域で生産が認められているDOCの銘柄ですが、主に島の中東部で造られます。プラムやブラックベリーの香りで、スミレ色を帯びたルビー色が熟成によってガーネット色になります。味わいも複雑味を帯びるようになる、島の代表的な赤ワインです。
海に囲まれていますがサルデーニャは「山の文化」があり、赤ワインとともに羊飼いの島でローストした肉料理が食されます。

ヴェルメンティーノ・ディ・ガッルーラ

爽やかなレモンの風味をもつヴェルメンティーノは、島の最も個性的な白ブドウです。州の北東部「ガッルーラ」では、熱気と海風がこの品種を濃縮させ、島の最初のDOCGワインに押し上げました。しっかりとしたアルコールをもつ深みのある味わい。かすかに塩っぽさがあり特産のスカンピ(エビ)と抜群の相性です。

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参考文献
ヒュー・ジョンソン、ジャンシス・ロビンソン/『世界のワイン図鑑 第7版』/ガイアブックス/2014年
ジャンシス・ロビンソン、ジュリア・ハーディング、ホセ・ヴィアモーズ/『ワイン用葡萄品種大辞典』/共立出版株式会社/2019年
一般社団法人日本ソムリエ協会/『日本ソムリエ協会 教本2018』/一般社団法人日本ソムリエ協会(J.S.A.)/2018年
宮嶋 勲/『イタリアワイン 2021年版』/ワイン王国/2021年
本間チョースケ/NHK出版/『本間チョースケ超厳選。飲むべきイタリアワイン103本』/2022年
川頭義之/『イタリアワイン最強ガイド』/株式会社文芸春秋/2005年

参考サイト
外務省/国・地域/イタリア共和国(Italian Republic)基礎データ/2023.9.12閲覧
https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/italy/data.html

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